⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
Neil Young
“Harvest” (1972)
ニール・ヤングの最高傑作というと、この『ハーヴェスト』か、前作の『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』が挙がるものだ。
わたしはずっと『アフター…』推しだったが、今、久しぶりに本作を聴き直してみて、あらためてその理由がわかった気がした。
わたしは昔から、本作の中でも壮大なオーケストレーションが付けられた2曲、「男は女が必要」と「世界がある」がどうも苦手なため、それで無意識に『ハーヴェスト』を減点しているのだなと思った。
その2曲を除いたらもう、名曲ばかりがズラリと並ぶ、超名盤であることは間違いない(いや、その2曲も名曲じゃん、と言われる方もいらっしゃるだろうけれども、苦手なものはどうしようもないのだ)。
本作は1972年2月にリリースされたニール・ヤングの4枚目のアルバムである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 週末に
2 ハーヴェスト
3 男は女が必要
4 孤独の旅路
5 国のために用意はいいか?
SIDE B
1 オールド・マン
2 世界がある
3 アラバマ
4 ダメージ・ダン
5 歌う言葉
それにしてもあらためて聴くと、元気のない曲が多いな。
冒頭の「週末に」からして、おいおいこれ大丈夫なのか、と思うぐらい異様に低いテンションと弱々しい声で始まる。まるで痩せ細った病人がベッドに横たわったまま歌っているかのようだ。次のハーヴェストもなんだか、杖をつきながら歩く老人ぐらい異様にスローなテンポだし。
というのもこの時期、ニール・ヤングは背中を痛めて入退院を繰り返し、車椅子で生活していたという。立つことが出来ないのでエレキ・ギターが弾けず、それでアコースティック・ナンバーが多くなったらしい。ロック調の「国のために用意はいいか」「アラバマ」「歌う言葉」は手術をして恢復した後に書き、録音したそうだ。
それでもどちらかと言えばアルバムとしては前作『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』よりも明るい印象があるのだけれども、それはたぶん本作がカントリー・ミュージックの聖地、ナッシュヴィルで当地のミュージシャンたちを使って録音されたものであり、温かみと輝きを感じるカントリー・サウンドのせいなのだろう。
その温かみと輝きが最も顕著に表れているのがシングル・カットされた「孤独の旅路」であり、全米1位の大ヒットとなり、ニール・ヤングの代表曲となった。
それにしてもこの『ハーヴェスト』というアルバム、立ち上がることも出来ない状態で歌われた弱々しい歌声や、必要最小限の音とシンプル極まりないメロディーしかないのに、聴き進めるうちにその抗いがたい独特の魅力にハマってしまう。
他のアーティストが100のアイデアをひねり出し、技術の粋を使ってレコードにつめこみ、必死の努力でなんとか新しいものに聴こえる音楽を作るのに対し、ちょこっとだけのメロディと、特段新しくもない最小限のサウンドだけで、軽く超えてしまっている感じだ。
当時、ジョニー・キャッシュの番組にゲスト出演したニールを彼が「天才」と評したのも頷ける。
アルバムは全米・全英で1位の大ヒットとなり、カナダ、オランダ、オーストラリア、ノルウェーなどでも1位を獲得、日本のオリコンでも6位と、世界的なヒットとなった。
ザ・バーズやバッファロー・スプリングフィールドから始まった「カントリー・ロック」が順調に生長し、豊かな実りをもたらして収穫され、世界へ届けられたのだ。
↓ 全米1位となったニール・ヤング最大のヒット曲「孤独の旅路」。
↓ 眠気を催すような遅いテンポと弱々しい歌声、最小限のコードとメロディしかないのに、なぜか心に沁みるタイトル曲「ハーヴェスト」。バックのストレイ・ゲーターズとベン・キースのペダル・スティール・ギターのごく遠慮がちな演奏がまたいい。
(Goro)