Neil Young & Crazy Horse
Powderfinger (1979)
シングル・ヒットしたわけでもなく、代表曲に挙げられることもないので、きっとニール・ヤングのファン以外は誰も知らない曲だとは思うけれども、わたしにとっては、ニールの曲の中でも余裕で三本の指に入るぐらい好きな曲だ。
シンプル・イズ・ベストな歌メロも感動的だし、歌のあいだ数回はさまれるギターソロも好きだ。
豪快だが一見たどたどしくも聴こえる彼のギター・ソロを「上手い」という人には残念ながら会ったことがないけれども、しかし歌うようなメロディが聴こえてきたり、叫んだり、怒ったり、泣き喚いたりと、喜怒哀楽がそのまま音になって出てくるような、唯一無二のギタリストだとわたしは思っている。速弾きや超絶技巧を誇示するだけのギタリストとは真逆の、熱い情念が迸る、真のロック・ギタリストだとわたしは思っている。
「オールド・ブラック」と呼ばれてニールのトレードマークともなっている1953年型ギブソン・レスポールは、バッファロー・スプリングフィールドのプロデューサーもしていたジム・メッシーナから1969年に50ドルで買ったそうだ。
元はゴールドだったものを前の所有者が黒に塗り直し、改造も施された状態で譲り受けた。
ピックアップが不調だったので、外してギターショップに修理に出したが、受け取りに行ったところ店が無くなっていたためピックアップを失い、応急処置でその後はグレッチのピックアップを取り付け、その後またファイアーバードのものに付け替えたそうだ。
それ以来、50年以上にもわたって今もまだ使い続けている。ちょうど今月リリースされる最新アルバム『Talkin To The Trees』のジャケットはこのオールド・ブラックの写真となっている。
「パウダーフィンガー」のギターソロはライヴで演奏するたびに毎回まったく違ったメロディ、フレーズを弾いてくれるのが楽しみでもある。
CDとして残されているのは79年の『ラスト・ネヴァー・スリープス』、同年の『ライヴ・ラスト』、91年の『ウェルド』などがある。
わたしがいちばん好きなバージョンは91年の『ウェルド』だ。ギター・ソロが感動的だ。
でもわたしのいちばんの思い出となっているのは、2001年来日時のフジ・ロック・フェスティヴァルの演奏である。
わたしはそこにいた。
わたしがニールのライヴを観たのはその一度きりだ。
ライヴの終盤、「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ」で盛り上がり、続いて25分以上にも及んだ「ライク・ア・ハリケーン」を最後に通常セットが終わると、アンコールは「ロッキン・イン・ザ・フリーワールド」だった。
その演奏を終えると、ニールがクレイジー・ホースのメンバーを呼び寄せてなにやら言い、少しの間をおいて始まったのが「パウダーフィンガー」だった。
「オールド・ブラックの調子もいいけん、パウダーフィンガーでもやるべ」なんてクレイジー・ホースのメンバーに指示したのだろうか。わたしの一生に一度の大テレパシーが通じた瞬間だった。ちょっと恥ずかしかったが、35歳のわたしは「パウダーフィンガー」を涙目で聴いた。
ライヴは3時間近くに及び、終演は午前0時を過ぎていた。
(Goro)