ニール・ヤング『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』(1970)【最強ロック名盤500】#158

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【最強ロック名盤500】#158
Neil Young
“After the Gold Rush” (1970)

ニール・ヤングを愛してやまないわたしが、4年ほど前に書いた記事、ニール・ヤング【名盤ベストテン】でも1位に挙げたアルバムだ。

わたしがニール・ヤングを初めて聴いたアルバムでもある。20代前半の頃だ。それまでブリティッシュ・ビートや70年代パンクを中心に聴いていたわたしにとって、このアルバムはなかなかの衝撃だった。

なんというか、独特の虚無的な感じがたまらなかった。
アコギを良い音で響かせ、独特の鼻にかかったか細い声で歌われる豊かなメロディー。力強さも熱量もあまり感じないのに、なぜか強情なほどの意志の強さは伝わってくる。

なにしろ全曲名曲と言えるほど充実した内容に、歌もギターも決して上手くはないのに、その溢れんばかりの才能の輝きと、その音楽の凄味に、鳥肌が立つほどだった。

「ボブ・ディランよりすごいのを見つけた」と、当時のわたしは思ったものだった。今でも思っているが。

あれ以来、まあよく聴いたものだ。

本作は1970年9月に発表された3rdアルバムだ。

ニール・ヤングをまだ聴いたことがない人は、まずはこのアルバムから聴いてみてほしいと思う。ニールはフォークやカントリーから、激しいロックやときにはテクノやノイズまでいろんなスタイルの楽曲やアルバムがあるけれども、本作が最も彼の音楽を凝縮した「基準点」とでも言えるものだからだ。

【オリジナルLP収録曲】

1 テル・ミー・ホワイ
2 アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ
3 オンリー・ラヴ
4 サザン・マン
5 やがて朝が…

1 オー・ロンサム・ミー
2 ブリング・ユー・ダウン
3 バーズ
4 アイ・キャン・リアリー・ラヴ
5 アイ・ビリーヴ・イン・ユー
6 壊れた渡し船

シングル・カットされたのはA3「オンリー・ラヴ」で、全米33位まで上昇した。

いきなり耳に馴染みやすいメロディで聴くものを魅きつけるA1「テル・ミー・ホワイ」に始まり、リンダ・ロンシュタットがカバーしたB5「アイ・ビリーヴ・イン・ユー」とB3「バーズ」、ガンズ&ローゼスがカバーしたB2「ブリング・ユー・ダウン」、ライヴでよく演奏されたB4「アイ・キャン・リアリー・ラヴ」など名曲・代表曲が目白押しだが、本作の白眉はタイトル曲とA4「サザン・マン」だろう。

「力強さも熱量もあまり感じない」などと先に書いてしまったが、米国南部の人種差別を批判した「サザン・マン」だけは別だった。異様に熱く、アグレッシヴな曲だ。途中、ニールの渾身のギター・ソロが入るが、これを聴いて「下手くそだなあ」としか思えない人とはわたしは一生分かり合えないと思う。

タイトル曲「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」は、日本語で言えば「祭りのあと」みたいな意味になるだろうか。

科学技術の発展こそが文明の発展であり、人類の幸福の追求であると疑うことがなく、ついには月面にまで降り立ち、人類の進歩を手放しで喜んできた時代に対し、「母なる自然が逃げ出していく」と歌う。

そして、「友達の言ったことを考えていたんだ、嘘だったらいいのにと思いながら」と、その文明の進歩が招きかねない絶望的な未来への不安を覗かせる。

ロックが世界中の若者を夢中にさせ、ヒッピーやドラッグ文化、ベトナム戦争や学生運動、大統領や指導者の暗殺など、熱狂と激動の時代だった1960年代が終わり、1970年代という新たな時代の幕開けに、ちょっと立ち止まって頭を冷やしてみる必要を感じ始めた、そんな時代の空気の変化が感じられる、ニール・ヤングの曲の中でも特に鋭敏な感性と大きなスケールを感じさせる美しい曲だ。

アルバムは全米8位、全英7位のヒットとなり、ニール・ヤングのブレイク作となった。

↓ 代表曲のひとつとなった「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」。

↓ 指先から血が滴るような魂のギターソロが聴ける「サザン・マン」。

(Goro)

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