極悪レミーの歌心 〜モーターヘッド『オーヴァーキル』(1979)【最強ロック名盤500】#268

Overkill [12 inch Analog]

⭐️⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#268
Motörhead
“Overkill” (1979)

モーターヘッドはいいぞ、とは聞いていたものの。

これは凄い。

1979年3月にリリースされた2ndアルバム『オーヴァーキル』は、わたしの期待を数倍上回る、恐るべき傑作だった。

圧倒的なパワーとエネルギーの放電。猛烈に野蛮でありながら、しかし鋭い知性も感じさせる、気高きロックンロールの極北。

速い、うるさい、暴力的。
なのに、ちゃんと音楽的だ。

この歳になるまで聴いていなかったのは、ハードコア・パンクやスラッシュ・メタルといったものに、正直わたしはこれまで惹かれたことがなかったからだ。速さと音圧だけで、音楽的な魅力に欠けると感じていた。モーターヘッドもきっとそんなバンドだろうと勝手に思い込んでいたのだ。

しかし本作は、速さと音圧だけではない。充分に音楽的であり、一度聴いただけで耳に残る、ある意味ポップな要素すらある。

不思議すぎて、何度も聴いてしまった。暴力的なビートと野獣のような絶叫と耳に突き刺さるノイズの塊を、なぜこれほど音楽的に感じるのか。まるで爆心地のような轟音の嵐が、なぜこれほどクールなのか。極悪レミーとその手下たちの秘めたる「歌心」すら聴こえてくる(ような気がする)から不思議なものだ。

しかしプロデューサーの名前を見て、驚いたのと同時に、なるほどな、と合点がいった。なんとあのジミー・ミラーである。ローリング・ストーンズの黄金時代を築き上げた名プロデューサーだ。

ジミー・ミラーはドラッグ依存で体調を崩し、ストーンズのプロデュースも途中で降板するなど、一度表舞台から姿を消していた。そして5年ぶりとなるプロデュース業への復帰作となったのが本作である。

これだけの爆音なのにそれほどうるさく感じないのは、音の分離が良く、音場に広がりを持たせているからだろう。これもジミー・ミラーの手腕に違いない。素晴らしい仕事で復帰したものだ。わたしはそこにも感動してしまった。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 オーヴァーキル
2 ステイ・クリーン
3 (アイ・ウォント) ペイ・ユア・プライス
4 アイル・ビー・ユア・シスター
5 カプリコーン

SIDE B

1 ノー・クラス
2 ダメージ・ケース
3 ティア・ヤ・ダウン
4 メトロポリス
5 リム・フロム・リム

A1「Overkill」からいきなりトップギアだが、2曲目以降は速いものばかりでもなく、メロディアスなものすらある。しかしそのどれもが圧倒的にラウドで、刺激的で、興奮のルツボである。

マシンガンをぶっ放すような強靭なリズム隊、おそろしくハードにエッジが立ったギター。その爆音に負けじと叫び、吐き捨てるように歌う極悪系ヴォーカルは、カッコ良さだけでなく、どこか人間臭い、渋い味わいもあるのがレミー・キルミスターという男の魅力でもある。

「Overkill」「Stay Clean」「I’ll Be Your Sister」「No Class」などなどお気に入りの曲をあげればキリがないが、とにかく楽曲が充実している。

無駄なものが一切ない、爆音ロックンロールの純粋結晶だ。

ストーンズの黄金時代のアルバムはさんざん聴いておきながら、ジミー・ミラーの他の仕事はほとんど知らなかった。

まさかこんなところでも、奇跡みたいな傑作を作ってやがったとは。

↓ オープニングを飾る「オーヴァーキル」。バンドの代表曲であり、2015年に行われたバンドの最後のライヴで、最後に演奏された曲となった。

↓ シングル・カットされた「ノー・クラス」。これもバンドの代表曲のひとつで、ギター・リフはZZトップの「タッシュ」を思わせる。

(Goro)

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