「モッズ」とは、”Moderns”の略だ。1950年代末から60年代中頃にかけて、英国ロンドンの下町の労働者階級の若者たちの間で流行した”族”文化である。
短髪に細身の3つボタンスーツ、米軍のミリタリー・パーカーといったファッションに身を包み、ミラーやライトで飾りつけたスクーターにまたがり、R&Bやソウル、スカやモダン・ジャズなどを好み、深夜営業のクラブに集まってダンスに興じたり、ドラッグなどを楽しんだ。それは英国で初めて誕生したユース・カルチャー (若者文化) だった。
下町の貧しい若者たちの”族”文化とはいえ、その後のカルチャーに与えた影響は大きく、ファッションはもとより、特に彼らの音楽の嗜好は、そのままブリティッシュ・ビートが生まれる土壌となった。
ここでは、そんなモッズ・カルチャーから生まれたバンドや、モッズたちに支持されたアーティストたちを紹介してみたい。
個性的なバンドばかりだが、共通する音楽性があるとすれば、R&Bがベースになっていることと、そしてどこまでもクールなビート・バンドであることだ。
アイ・キャント・エクスプレイン (1964)
The Who – I Can’t Explain
モッズ・バンドとして真っ先に思い浮かべるのがこのザ・フーだろう。当時のモッズのライフスタイルや苦悩を描いた映画『さらば青春の光』も、ザ・フーのロック・オペラ『四重人格』を映画化したものだ。
ザ・フーとモッズは相思相愛の関係にあったと言えるが、それはザ・フーが若者世代の悩みやフラストレーションをストレートに歌う初めてのバンドだったからだ。この曲は彼らのデビュー・シングルで、全英シングルチャート8位を記録するヒットとなった。
イエ・イエ (1964)
Georgie Fame – yeah yeah
オルガン・ジャズ直系のオルガニスト、ジョージィ・フェイムは1964年にデビューし、4枚目のシングルとなるこの曲が全英1位の大ヒットとなった。
モッズたちが集まった深夜営業のクラブ《フラミンゴ》や《マーキー》で演奏して人気を博した、まさに当時のクラブ・ミュージックだった。ジャズとR&Bを下敷きにした独特なサウンドと、呟くようにクールに歌うスタイルがカッコいい。
ホワッチャ・ゴナ・ドゥ・アバウト・イット (1965)
The Small Faces – What’cha Gonna Do About It
ザ・フーと並んでモッズ・バンドとして支持されたスモール・フェイセズのデビュー・シングル。全英14位のヒットとなった。
ソロモン・バークの「エヴリバディ・ニーズ・サムバディ・トゥ・ラヴ」を手本にしたというこの曲は、シンプルだけどいかにもモッズらしい、クールな曲だ。ソウルフルなヴォーカルが素晴らしいスティーヴ・マリオットの絶叫、イアン・マクレガンのオルガンもカッコいい、
メイク・ハー・マイン (1965)
Hipster Image – Make Her Mine
1999年にリーヴァイスのCMに使用されて一躍注目を浴びた曲。
英国の5人組のビート・バンド、ヒップスター・イメージは、1965年にシングル「キャント・レット・ハー・ゴー/メイク・ハー・マイン」でデビューしたもののまったく売れず、このシングル1枚のみで消えたバンドだった。
それが34年後に世界的な有名ブランドのCMで使われ、日本でもCDシングルが発売され、この曲を収録したモッズ・ミュージックのコンピレーション『The Mod Scene』がバカ売れし、映画『スウィングガールズ』で女子高生たちが演奏するのだから、何がどうなるかわからないものだ。
リトル・ガール (1965)
The Graham Bond Organisation – Little Girl
英国初のハモンド・オルガン奏者として知られるグラハム・ボンドがオルガンの他にリード・ヴォーカル、サックス、ソングライターも務めたバンド。ベースとドラムは後にクリームを結成するジャック・ブルースとジンジャー・ベイカーだ。
この曲は彼らの1stアルバム『ザ・サウンド・オブ ’65』に収録された曲で、ボンドのオリジナルである。
ランド・オブ・ア・サウザント・ダンス (1965)
The Action – Land of a Thousand Dances
ジ・アクションは1965年にこのシングルでデビューし、その後も数枚のシングルをリリースしたものの商業的に成功せず、アルバムをリリースすることなく解散した。
この曲は彼らのデビュー・シングルで、1962年発売のクリス・ケナーの名曲「ダンス天国」のカバーだ。翌年にウィルソン・ピケットが歌って大ヒットするが、ジ・アクションの対照的なほどクールなバージョンがわたしは好きだ。まったく売れなかったが。
ギミー・サム・ラヴィング (1966)
The Spencer Davis Group – Gimme Some Lovin’
全英2位、全米7位のヒットとなったスペンサー・デイヴィス・グループの代表曲。多くのカバーが生まれ、TVCMや映画などでもよく使われたので、タイトルもアーティストも知らないけど聴いたことはある、という人も多いのではないか。
ハモンドオルガンを弾きながら歌うスティーヴ・ウィンウッドの、白人とは思えないほどソウルフルな歌声が魅力的だ。しかもこの当時彼は、たったの18歳なのだ。
メイキング・タイム (1966)
The Creation – Making Time
モッズ・ファッションとアグレッシヴな演奏、先鋭的な作風のカッコいいバンドだったが、なぜかまったく売れずに解散。ギターのエディ・フィリップスは初めてエレキギターをヴァイオリンの弓で弾いたギタリストとして知られるが、それもジミー・ペイジにパクられてしまった。この曲は彼らのデビュー・シングルで、ちょっとザ・フーを想起させるが、実験的な要素もあって面白い。
後に最も有名なインディ・レーベルの創設者、アラン・マッギーは彼らをリスペクトし、レーベルの名前も彼らのバンド名から取って〈クリエイション・レコーズ〉と名付けたほどだった。
ストップ!ストップ!ストップ! (1966)
Graham Gouldman – Stop! Stop! Stop!
ソングライターでベーシストのグラハム・グールドマンは、ヤードバーズの「フォー・ユア・ラヴ」やホリーズの「バス・ストップ」などのヒット曲を書いてヒットさせた名ソングライターだ。そして1972年には、10ccを結成する。
このクールな名曲は1966年にリリースした、彼のデビュー・シングルだ。
アンクル・ウィリー (1964)
Zoot Money’s Big Roll Band – Uncle Willie
最後は、モッズの顔役とも呼ばれた、ヴォーカリスト兼キーボード奏者のズート・マネー率いる元祖モッド・ジャズ・バンドのデビュー・シングル。ブリティッシュR&Bのドス黒いグルーヴが魅力だ。
モッズ・ミュージックをまとめて聴いてみたい人には『ザ・モッズ・シーン』がお薦めだ。3分に満たないスピード感溢れる曲を中心に25曲も入っていて、どれもクールで最後まで飽きずに聴ける、コンピレーション・アルバムの傑作だ。
また、当時の「モッズ」たちのライフスタイルや苦悩、ロッカーズとの対立などを描いたのが1979年の映画『さらば青春の光』だ。あのスティングも印象的な役で出演している。モッズに興味を惹かれる方にはぜひお薦めしたい作品だ。
(Goro)