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Lightnin’ Hopkins
“Mojo Hand” (1962)
アコースティック・ギターの音が好きなのだけれども、録音ではなかなかリアルな音で録れているものが少ない。弾き方にもよるだろうが、チャリチャリと弱々しい音で鳴っているだけだったり、妙に柔らかいボケた音だったり。エレアコなんかはもう論外である。
その点、このアルバムのアコギの音は素晴らしい。力強く、生々しい音だ。ガチガチに硬い6本の弦が「これがヘヴィゲージだぜ!」と主張しているかのようだ。まるで高圧電線でも弾いているかのような、硬くて重い音がたまらない。
本作が録音されたのは1960年11月のニューヨークだ。
当時のニューヨークはフォークブームの真っ只中で、コーヒーハウスやクラブでフォークソングが演奏され、ちょうどミネソタ大学を中退して都会に出てきたばかりのボブ・ディランが街角をウロウロしていた頃である。
黒人コミュニティの奥深くでアコースティック・ブルースを演奏していたライトニン・ホプキンスもそのフォーク・ブームに巻き込まれるように発見され、表舞台に引っ張り出され、レコーディングを重ねて、およそ2年ほどの間に8枚ものアルバムがリリースされた。
本作は8枚目のアルバムで、それまでは弾き語りだったのが、初めてベースとドラムを導入した意欲作である。そのせいもあるのか、ホプキンスの歌唱やギター演奏も、ヤクでもやってるのかと思うほどテンションが高く、熱がこもっている。歌いながら、たまにグヘヘヘと笑ったりもしている。
SIDE A
1 Mojo Hand
2 Coffee For Mama
3 Awful Dream
4 Black Mare Trot
5 Have You Ever Loved A Woman
SIDE B
1 Glory Be
2 Sometimes She Will
3 Shine On,Moon!
4 Santa
A1「モジョ・ハンド」はシングルカットされ、米R&Bチャートの26位まで上がるヒットとなった。
マディ・ウォーターズの「ガット・マイ・モジョ・ワーキング」など、ブルースによく出てくるこの「モジョ」と呼ばれるのは、ブードゥー教の呪術師が作って売る、お守り袋のことのようだ。女にモテるモジョとか、歌が上手くなるモジョとか、いろいろなインチキ臭いものが売られていたらしい。
ルイジアナに行って、モジョ・ハンドを手に入れるんだ
おれの女が浮気しないように男が出来た女はすぐにわかる
まっすぐおれを見ようとしないし、急にキレやがる
明日ルイジアナに行ってモジョ・ハンドを手に入れ
すぐに帰ってくるつもりだ
(written by Lightnin’ Hopkins, Sam Hopkins)
このライトニン師匠の曲の、その意味するところはこのジャケからも推察できるように、要するに、モジョを手に入れて、絶倫になって女をヒイヒイ言わせたるぞ!ってことなのだろう。
ただし、マディ・ウォーターズも「いい加減な呪術師が金儲けのために売りつけてるんだ」と言っているように、その効果を心底信じてるわけでもなく、面白半分に歌われているようだ。
それでもこの力強い歌とアコギのものすごさは、もしかしてモジョの効果なのだろうかと思うほどである。
米テキサス州で生まれたライトニン・ホプキンスは、10歳のときに出会ったブラインド・レモン・ジェファーソンからギターを教わった。
架橋工事の重労働に従事し、宿舎では足を鎖で繋がれて寝起きする生活を強いられ、ときには喧嘩で刑務所に送られたこともあったという。
本作は、そんな彼が48歳のときに録音したアルバムだ。
そんな過酷な人生を生き延びた強靭な肉体と精神が、この力強い音に宿っているようだ。
↓ 代表曲の「モジョ・ハンド」。得意の稲妻アコギスタイル。途中の下卑た笑い声がまたいい。
↓ こちらはエレキギターによるディープ・ブルース「シャイン・オン・ムーン」。歌もかっこいい。
(Goro)