Kris Kristofferson
Sunday Morning Coming Down (1970)
「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」のクリストファー・クロスではない。
クリス・クリストファーソンである。
間違いやすいので、念のため。
1936年にテキサス州ブラウンビルで生まれたクリス・クリストファーソンは後には俳優としてのほうが有名になったほどだけれども、もともとはカントリー歌手としてデビューし、数々のヒット曲を書いた。ソングライティング能力に優れ、ジャニス・ジョプリンの「ミー・アンド・ボビー・マギー」も彼が書いた曲だ。
この曲は彼の1stアルバム『クリストファーソン』に収録された、彼の代表曲だ。
しかし彼が念願の歌手デビューを果たすまでには多くの苦難が伴った。
彼は25歳で結婚したが、両親の強い希望によってアメリカ陸軍に入隊する。ヘリコプターのパイロットになり、大尉まで昇進した。
西ドイツに駐留しながらバンドを結成し、1965年に軍を辞めて、ソングライターへの道へ進むことを決心したが、猛反対した両親は彼を勘当した。
クリストファーソンは音楽で身を立てようと妻と子を連れてナッシュヴィルへ移住し、コロムビア・レコーディング・スタジオの掃除夫の職に就いた。そして1968年に妻と離婚する。
掃除夫として務めるスタジオで歌手のジューン・カーターに会い、クリストファーソンは彼女に自分の歌を録音したテープを渡し、彼女の夫であるジョニー・キャッシュに渡してくれるよう頼んだ。ジューンはジョニーに渡したが、ジョニーは山積みになったテープの中に放り込んだだけだったという。
テープを渡した数週間後、クリストファーソンは掛け持ちで勤めていたヘリコプター会社のヘリコプターをジョニー・キャッシュの家の庭に着陸させ、再びテープを渡したという。
ジョニー・キャッシュはテープの「サンデー・モーニング・カミング・ダウン」に感銘を受け、それを自身で歌うことを決意した。シングルでリリースすると米カントリー・チャートの1位となる大ヒットとなった。このヒットのおかげでクリストファーソンは仕事を辞めることができたと言う。
ジョニー・キャッシュは、自分の番組(ジョニー・キャッシュTVショー)でもこの曲を歌ったが、この歌に出てくる「Stoned(ハイになる)」という言葉は放送できないので変えてほしいというプロデューサーの懇願に対して、ジョニーは「これは真実を歌っているんだ。真実の何が悪い」と突っぱね、堂々と歌い切ったというエピソードもある。
日曜の朝に、唐揚げを揚げる匂いなどが漂い、母親と子供たちの声が聞こえる幸せそうな通りを歩いていると、自分の孤独と自堕落な生活がやりきれなくなるという、映画のワンシーンのように情景が浮かぶ、心に深く刻まれる印象的な歌詞の名曲だ。
クリス・クリストファーソンは、リタ・クーリッジやリサ・マイヤーズなど、生涯で3度結婚した。
そして2024年9月28日、マウイ島の自宅で死去した。88歳だった。
R.I.P.
↓ 1970年6月にリリースされた1stアルバム『クリストファーソン』に収録された、本人のバージョン。
↓ レイ・スティーヴンスが1969年にシングル・リリースしたバージョン。米カントリー・チャート55位。
↓ ジョニー・キャッシュが『ジョニー・キャッシュTVショー』で歌った映像。
(Goro)