⭐️⭐️⭐️
Joy Division
“Closer” (1980)
それにしてもなんだってこんな暗くて陰鬱な音楽に人は惹かれるのだろうか。
「暗さ」という美が存在するのだろうか。
「陰鬱」という魅力に惹かれるのだろうか。
ジョイ・ディヴィジョンの1stアルバム『アンノウン・プレジャーズ』はわたしは正直あまり楽しめなくて、この500にも選ばなかったけれども、しかし本作は、暗くて陰鬱なのは相変わらずとはいえ、音楽的にはずいぶん印象が違う。俄然、面白くなった。
ヴォーカリストであるイアン・カーティスの突然の死で、2ndアルバムにして最後のアルバムとなってしまった本作を「面白い」と言うのはなんだか不謹慎にも思えるけれども、いやしかし制作中はこの後イアンが死ぬなんて誰も思わずに作っていたのだから、暗くて陰鬱な美の追求と、偽りのない生の感情を音楽に込めて、作品を前向きな気持ちで作っていたに違いないのだ。
異様なリズムや攻撃的なビート、狂ったようにノイズを放射し、音楽を傷だらけにしていくギター、そしてシンセサイザーの使用によって、インダストリアル・ミュージックの初品のような冷たく無機的なサウンドになっている。大暴れするバンドの中心にいながら、ヴォーカルは幽霊のように影が薄い(不味い例えだったか)。
孤独や絶望や死への感情を、真実の感情として表現するという、普通は誰もが避けて通りそうな所にあえて手を出し、「苦悩」や「痛み」の存在を否定せずに、音楽として表現している。本質を鷲掴みにするような大胆さに、心の奥底が揺さぶられるのだ。
本作はイアン・カーティスの死から2ヶ月後の1980年7月にリリースされ、英インディ・チャートの1位を獲得した。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 アトロシティ・エクシビション
2 アイソレイション
3 パスオーヴァー
4 コロニー
5 エイ・ミーンズ・トゥ・アン・エンド
SIDE B
1 ハート・アンド・ソウル
2 24アワーズ
3 ジ・エターナル
4 デケイズ
イアン・カーティスはこの当時、重度のてんかんを患い、その発作に苦しみ、ステージ上で突然倒れることもあったという。薬の副作用で極端に気分が変動し、疲労感も常態化していた。また、病状が深刻なため、生まれたばかりの娘を抱くことも許されなかったという。
初のアメリカツアーの出発前日となった1980年5月20日、イアンは自宅のキッチンで首を吊ってこの世を去った。享年23歳だった。遺書はなかったが、てんかんの発作によってバンドの足を引っ張ることに強い不安を抱いていたことや、妻と関係が悪化し、ジャーナリストの女性と親密な関係になっていたことに対する罪悪感や自己嫌悪などもあったという。
イアンは友人に「俺はジョイ・ディヴィジョンの未来を壊す存在になってしまう」と語り、彼のノートには「何もかも終わらせたいわけじゃない。でも、どうすればいいのか分からない」と書き記された一文があったという。
アルバム・ジャケットは1st同様、ピーター・サヴィルがデザインしたものだ。
イタリアのアッピアーニ家の墓石である。
このアートワークはイアンの死の前に制作されたものであったため、デザイナーはイアンの死を知ると懸念を表明したが、そのまま使用された。
アルバムの内容をよく表した、美しいジャケットだと思う。
↓ J・G・バラードのSF小説『残虐行為展覧会』からタイトルを取った、ノイジーで実験的なオープニング・トラック「アトロシティ・エクシビション」
↓ ポップなシンセサイザーが印象的な「アイソレイション」。テーマは孤立と断絶だ。
(Goro)