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Johnny Cash
“With His Hot and Blue Guitar” (1957)
米アーカンソー州出身のジョニー・キャッシュは、一応のジャンル分けで言うとカントリー歌手と言うことになる。しかし彼が「アウトロー・カントリー」と呼ばれたように、カントリーの王道から外れた彼の音楽はそのように単純に括られるものではなかった。
彼のCDのAmazonの商品説明欄には「ロックンロールの反逆性とフォークの自伝的要素、そしてカントリーの悲哀とが共存した偉大なアーティスト」と書かれている。
まさにその通りだ。うまいこと言うなあ、と感心する。
その唯一無二の激しい個性は音楽にも反映され、どのジャンルとも言えない、まさに「ジョニー・キャッシュの音楽」という他なく、それこそが彼の最大の魅力である。
本作は1957年10月にサン・レコードからリリースされたジョニー・キャッシュの1stアルバムである。4曲のヒット曲が収録されている。カッコ内は米カントリー・チャートの順位だ。
SIDE A
1 ロック・アイランド・ライン
2 アイ・ハード・ザット・ロンサム・ホイッスル
3 カントリー・ボーイ
4 イフ・ザ・グッド・ローズ・ウィリング
5 クライ、クライ、クライ (14位)
6 リメンバー・ミー
SIDE B
1 ソー・ドッゴーン・ロンサム (4位)
2 アイ・ワズ・ゼアー・ウェン・イット・ハプンド
3 アイ・ウォーク・ザ・ライン (1位)
4 97年型の大破
5 フォルサム・プリズン・ブルース (B1のB面)
6 ドゥーイン・マイ・タイム
彼の低音の、深く響く独特の声は、たとえ古い録音のものでも今まさに目の前で歌われているようにリアルに胸に響く。本物の男が、本当のことを包み隠さず歌っている、そんな説得力に満ちた歌だ。
バックの演奏は「テネシー2」というエレキギターとアップライト・ベースを弾く二人だ。
もともと腕の良いプロのミュージシャンというわけではなく、ジョニーの友人というか、近所で自動車整備工として働いていた2人だ。これに後にドラムも加わってテネシー3というグループに進化する。
ムダな音の一切無い、シンプルな音楽だ。エレキギターやアップライト・ベースの1音1音がこれほどまでに美しく、力強く、意味を持って響くのを感じたことがわたしはなかった。ジョニーの声がその絶妙のサウンドに共鳴して、シンプルの極みだがこれ以上何もいらないと思えるような素晴らしい音楽が出来上がる。
B3「ウォーク・ザ・ライン」は昨日の記事で書いたが、ジョニー・キャッシュのブレイク作であり、彼の代表曲だ。わたしもこの曲を聴いたのをきっかけにハマった。「ブンチカブン」サウンドと呼ばれた独特のサウンドは、アコギの弦とネックの間に1ドル札を挟むことで作り出している。
そしてB5「フォルサム・プリズン・ブルース」にはこんなものすごい歌詞がある。
俺はリノで男を殺した
ただ彼の死ぬところを見たかったから
これは囚人の心の闇を描いた歌であるらしい。
エルヴィスが「ハートブレイク・ホテル」を歌っていた頃、チャック・ベリーやリトル・リチャードがデビューした頃、すでにジョニーはこんな恐るべき歌を書いていたのだ。この曲は中間のギターソロがまたカッコいい。
他にもデビュー・シングルのB面に収録されていたA5「クライ・クライ・クライ」も名曲だし、ハンク・ウィリアムスのカバーである哀愁に満ちたA2「アイ・ハード・ザット・ロンサム・ホイッスル」も好きだ。
ジョニー・キャッシュの魅力は音楽だけにとどまらない。
とにかく人間としてのオーラ、ただ者でないオーラが半端ではない。
彼の半生を描いた映画『ウォーク・ザ・ライン~君につづく道』にはその彼の人間的な魅力
そして危うさも、存分に描かれている傑作だ。ジョニー・キャッシュ入門として、まずこの映画から見てみるという手もあるだろう。
↓ 米カントリー・チャート1位の大ヒットとなった代表曲「アイ・ウォーク・ザ・ライン」。
↓ ライヴではいつもオープニングで歌われていた代表曲「フォルサム・プリズン・ブルース」。
(Goro)