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The Jimi Hendrix Experience
“Electric Ladyland” (1968)
1968年10月にリリースされた、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスによる一大実験工房のような趣の3rdアルバムだ。ありがたいことに、質量共に大満足、お腹いっぱいの2枚組大作である。
生物の進化は、自然選択・淘汰によって徐々に変化していくのみではなく、劇的な突然変異が進化の主原動力となるとする進化論の学説があるが、ロック史で言えばまさにその劇的な突然変異がジミ・ヘンドリックスだったと思う。彼の登場によってロックは短期間に一気に進化した。
ロックの歴史とは、エレキギターをどう使うか(または使わないか)という実験と闘争の歴史でもあるのだと思う。
1stと2ndにはカバー曲がまったく無かったが、本作では2曲のカバーが重要な役割も果たしている。カッコ内はカバー元のアーティスト。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 恋の神々
2 エレクトリック・レディランド
3 クロスタウン・トラフィック
4 ヴードゥー・チャイル
SIDE B
1 リトル・ミス・ストレンジ
2 長く暑い夏の夜
3 カム・オン (アール・キング)
4 ジプシー・アイズ
5 真夜中のランプ
SIDE C
1 雨の日に夢去りぬ
2 1983
3 月夜の潮路
SIDE D
1 静かな雨、静かな夢
2 焼け落ちた家
3 ウォッチタワー(ボブ・ディラン)
4 ヴードゥー・チャイルド スライト・リターン
曲想はバラエティに富み、収集がつかないほどゴチャついた印象も与えるが、他のレコードでは決して味わえない、驚きと刺激に満ちた異次元の刺激と興奮を味わわせてくれる。
A4「ブードゥー・チャイル」が15分、C2「1983」が13分と長尺曲も2曲あるが、長尺嫌いのわたしでも退屈しない面白さがあるし、完成度の高いブルース・カバーのB3「カム・オン」、強烈にファンキーなハード・ロックのD4「ヴードゥー・チャイルド スライト・リターン」、ジミの完璧主義で50回も録り直して周囲をうんざりさせたというB4「ジプシー・アイズ」も聴きものだ。
しかしなんと言っても本作のハイライトは、キレのいいギター・リフから始まるスピード感あふれるカッコ良さのA3「クロスタウン・トラフィック」、そして作者のボブ・ディランが激賞し「あの曲の権利の半分はジミのもの。あれが完成形だ」とまで言ったD3「ウォッチタワー」だろう。
本作はジミの作品で唯一となる、全米チャートの1位を獲得した。
そしてこれが、ジミの最後のオリジナル・アルバムとなった。
ロックファンならジミ・ヘンドリックスの名前を知らない人はいないだろうけど、実際のところトップ10シングルは生まれなかったし、生前に残したアルバムはスタジオ盤3枚とライヴ盤1枚のみ。活動期間はわずか4年ほどに過ぎなかった。
それでもエレキギターとロックの可能性を一気に拡げた革命児であり、現在においても、史上最高のロック・ギタリストであることに間違いはない。
↓ 全米52位、全英37位の「クロスタウン・トラフィック」。パッとしない順位だが、しかしジミヘンはそもそもシングルではあまり結果を残しておらず、あの「紫のけむり」ですら、全米65位が最高位だった。
↓ ボブ・ディランのカバー「ウォッチタワー」。全米20位、全英5位と、ジミのシングルでは最もヒットした。
(Goro)