Jeff Buckley
“Grace” (1994)
米カリフォルニア出身で、1992年にデビューしたジェフ・バックリィが遺した、たった1枚だけのスタジオ・アルバムだ。
ジェフ・バックリィは、1966年にデビューしたシンガー・ソング・ライター、ティム・バックリィの息子である。ただし両親が早く離婚したため、ジェフは父親に一度しか会ったことがないそうだ。
父のティム・バックリィは、フォークやサイケ、ジャズを取り入れた、先進的でありつつどこか影のある抒情的な作風だった。9枚のアルバムを残し、1975年にヘロインのオーバードーズでこの世を去った。28歳だった。商業的には成功しなかったが、その死後も高く評価され、聴き継がれている。
息子であるジェフ・バックリィも父親と同じくシンガー・ソング・ライターとしてデビューし、父親を超えるほどの表現力の豊かさ、魂の叫びのような真摯な歌声が話題となり、批評家や、ジミー・ペイジ、デヴィッド・ボウイ、ボブ・ディランといったミュージシャンたちからも絶賛された。トム・ヨークも大きな影響を受けたことを公言している。
本作は、1994年8月にリリースされた。
【オリジナルCD収録曲】
1 モジョ・ピン
2 グレース
3 ラスト・グッドバイ
4 ライラック・ワイン
5 ソー・リアル
6 ハレルヤ
7 恋人よ、今すぐ彼のもとへ
8 コーパス・クリスティ・キャロル
9 エターナル・ライフ
10 ドリーム・ブラザー
収録曲の中でも特に話題になったのが、レナード・コーエンのカバーである「ハレルヤ」の名唱である。テレキャスターの美しい音色による弾き語りで、まるで初めて言葉を話した少年のような弱々しい歌声で始まり、やがて感情を顕わにして次第に高まっていく様は感動的である。
4オクターブを超えると言われる声域を持ちながらも、ジェフ・バックリィの歌声には、「歌唱力」や「技巧」といった言葉は不似合いだ。それは、素人の本物の感情の爆発の瞬間を捉えたドキュメンタリー映像のようなもので、それはどんな名優の演技力も敵わない、本物の迫力と生々しさの衝撃を感じる。
アルバム『グレース』は国内外で高く評価された。そしてジェフ・バックリィが今まさに世界へと羽ばたこうとしていた矢先に、悲劇が訪れる。
1997年、5月下旬のある暑い日、散歩の途中で彼はミシシッピ川で泳ぎ始め、やがて溺れてしまう。そしてそのまま還らぬ人となった。
享年30歳だった。
父親より2年だけ、長く生きた。
↓ レナード・コーエンのカバー「ハレルヤ」の名唱。
↓ 自作のタイトル曲「グレース」。死刑囚の最期を連想させるような歌詞も注目された。
(Goro)
