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Happy Mondays
“Pills ‘n’ Thrills and Bellyaches” (1990)
ハッピー・マンデーズはイギリスの工業都市マンチェスターのバンドだ。1987年にデビューし、93年に解散した。
マンチェスターの平均年収は、英国全体のそれより2割少なく、生活保護受給者の数は英国平均の2倍なのだそうだ。
低所得者層の多い街ということと関係があるのかないのか、これまでに多くのロックバンドを輩出している。バズコックス、ジョイ・ディヴィジョン、ザ・スミス、ストーン・ローゼズ、インスパイラル・カーペッツ、そしてオアシスなどなど。みんな一癖も二癖もあるバンドばかりだな。
オアシスのノエル・ギャラガーによれば、「マンチェスターで大人になるってことは、サッカー選手になれなければ、工場で働くか、ドラッグの売人になるか、ミュージシャンになるかだ」ということらしい。
80年代末頃のマンチェスターは、エクスタシー(MDMA)などのドラッグと「アシッドハウス」と呼ばれるダンスミュージックが大流行していた。
その享楽的なレイヴ・カルチャーの影響を受け、80年代以降滅びつつあるかのように見えたブリティッシユ・ロックは、ダンスミュージックとの融合という禁じ手を使って奇跡の復活を遂げたのであった。
狂ったマンチェスターの意味で〈マッドチェスター〉と呼ばれたそのムーヴメントで、ブレイクしたアーティストには、ザ・ストーン・ローゼス、インスパイラル・カーペッツ、ジェイムズなどがいるが、その代表格であり、良い意味でも悪い意味でも(たぶん悪い意味だが)、最もマッドチェスターを体現していたのが、このハッピー・マンデーズである。
その享楽的で刹那的な永遠のグルーヴは、できれば昨日のことも思い出したくないし明日のことも考えたくない当時のわれわれにとってのささやかな熱狂であった。
本作は1990年11月にリリースされた3rdアルバムだ。ハッピー・マンデーズの最高傑作である。
ロック的なギターリフはどれもこれもよくできているし、リマスター化されてベースが強力になり、ファンク風のグルーヴがさらに強靭になっている。下手くそだけどリアルな失業者風のヴォーカルに、力強いゴスペル風のコーラスが被さる。ロックとダンスミュージックの融合の、おそらく最良の成功例のひとつだ。あらためて聴いてみて、ノリだけではない、その曲の良さに感心した。
アルバムは全英4位の大ヒットとなり、シングル・カットされた「キンキー・アフロ」は全英5位、米オルタナチャート1位を獲得、「ステップ・オン」も全英5位、米オルタナチャート9位のヒットとなった。
うわあ。
なんだか恥ずかしいPVだな。
あんまりなにもできなさそうなバンドと、もっとなんにもできない美女たち。
アホっぽくて、ひどいもんだ。
とは言えべつに今さら気づいたわけでもない。
ハッピー・マンデーズはもう初めからアホだし、くだらないのだ。ヤク中だし。
でもくだらない音楽でめいっぱい楽しんでた頃のくだらない自分を思い出すと懐かしい。アホになるのも時には悪くない。アホになりたいときにはもってこいの音楽だった。
マンチェスターよりもさらに退屈な、日本中のどこにでもある地方都市に住むわたしは、夜中に部屋でヘッドホンをつけて酒を呑みながら、机上の熱狂と脳内ダンスに酔っては眠る日々だったのである。
(Goro)