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Gimme Danger
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:イギー・ポップ、ロン・アシュトン他
昨日紹介した『イギー・ポップ:ア・パッション・フォー・リヴィング』から18年後に制作された、イギーと元ストゥージズのメンバーたちのインタビュー、当時のライブ映像、アニメなどで構成された、ザ・ストゥージズの結成から解散、再結成までを描いたドキュメンタリー作品だ。
監督のジム・ジャームッシュはもともとストゥージズのファンで、『デッドマン』『コーヒー&シガレッツ』などの作品でイギーを起用したこともあった。今作は、イギーのほうからジャームッシュを監督に逆指名したのだそうだ。
イギーの人格形成に影響を与えたらしい出来事の逸話が興味深い。
子供向けテレビ番組の、めちゃくちゃに暴れ回る気違いじみたキャラクターに夢中になり、番組の最後に彼が必ず言う「ファンレターは25語以内で書いてね!」というセリフを心に留め、ストゥージズの歌詞は25語以内に心がけたという話。
戦前・戦中に人気のあったコメディ・グループ「三バカ大将(The Three Stooges)」からバンド名を取り、実際の三バカ大将のひとりに直接電話して許可を得たことなどは、彼のナンセンスなユーモアやパフォーマンスを好む傾向が窺える。
父親と一緒に見学に行った金属の成型工場の機械音が自分の好みの音だと気づいたこと、トレーラーハウスで両親と暮らし、その狭い空間にドラムセットを持ち込んで練習したこと、レコード屋でバイトして当時の様々なジャンルの前衛音楽などを知ったことなど、イギーの音楽性に影響を及ぼした逸話も興味深い。
イギーはほとんど楽器も出来ないアシュトン兄弟らとストゥージズを結成し、同郷のMC5が練習しているスタジオをみんなでこっそり見に行ったりして手本にしたという。
そのMC5がエレクトラ・レコードから契約を打診されたとき、「おれたちを気に入ったのなら、もう一組お薦めのバンドがあるよ」とストゥージズを紹介し、その後、2バンド同時契約の運びとなったそうだ。
そんなストゥージズの成り立ち、活動が時系列で丁寧に語られていく映画だ。
しかし、ストゥージズには熱狂的なファンも多くいたものの、レコードは売れず、批評家に酷評され、レコード会社の重役にも理解を得られなかった。そのうえドラッグに溺れ、素行の悪さも目に余り、アルバムを2枚出したところで、エレクトラをクビになる。
その後、ヘロインの売人と知り合って同居するようになったことでストゥージズは完全崩壊するが、3年のブランクの後、彼らの音楽を高く評価していたデヴィッド・ボウイが救いの手を差し伸べ、3rdアルバムを制作することになる。
当時のライブ映像は、比較的きれいな映像が使われていてありがたい。ただし音はほとんど使われていない。レコードの音源を被せてある。たぶん使用に耐えないような音だったんだろう。
再結成後の映像などもあり、ストゥージズの真面目な公式ドキュメンタリーとしては過不足ない内容だ。とりあえず、ストゥージズを「史上最高のロックンロールバンド」と評する監督に、ちゃんとしたドキュメンタリーを撮ってもらえたことがわたしは嬉しい。
それにしても驚いたのは、3rdアルバム『ロウ・パワー』でギタリストとして加入したジェームズ・ウィリアムソンが、75年のストゥージズ解散後(当時24歳)、電子工学を勉強して学位を取得し、シリコンバレーで働き、やがてソニー・エレクトロニクスにヘッド・ハンティングされ、なんと副社長の地位にまで昇り詰めたという。
そんな彼がソニーを自主退職し、64歳でストゥージズの再結成に参加するというのだから、なんとも物凄い人生である。
(Goro)