Fear
“The Record” (1982)
ロックが好きと言っても、当然ながら苦手なジャンルはある。
道路工事の掘削機みたいなビートに、アジテーションのように叫ぶヴォーカル、音圧が強すぎて音が団子状態のバンド演奏。短い曲が次々に繰り出されて、それが全部同じに聴こえる。政治や社会を批判する過激な歌詞は、ミュージシャンというより活動家みたいだ。
うるさくて聴いてられない、というよりも、音楽的じゃなさすぎて、退屈なのだ。
それでも、どんなジャンルにも例外はいるものだ。
このフィアーという、一般的にはほとんど知られていない4人組は、ヴォーカル&ギター兼ソングライターのリー・ヴィングを中心に、1977年にロサンゼルスで結成されたバンドだ。
本作はそのフィアーが1982年5月にリリースした1stアルバム『ザ・レコード』だ。今聴いても断然面白い、時代を超えた名盤だ。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 Let’s Have a War
2 Beef Boloney
3 Camarillo
4 I Don’t Care About You
5 New York’s Alright If You Like Saxophones
6 Gimme Some Action
7 Foreign Policy
SIDE B
1 We Destroy the Family
2 I Love Livin in the City
3 Disconnected
4 We Got to Get Out of This Place
5 Fresh Flesh
6 Getting the Brush
7 No More Nothing
全14曲で27分は、ラモーンズの1stと同じぐらいの感じだ。
ハードコアにしてはそこまで速くないし、曲によってスピードもバラバラだし、リズム・パターンにも変化がある。何より、ちゃんとヴォーカルは歌ってるし、バンドは巧いし、ギター・ソロだってある。気持ちいいぐらい歯切れの良いタイトな演奏で、音も団子みたいにならず、風通しの良いサウンドだ。各曲のアレンジにも工夫の跡が見て取れるし、リー・ヴィングが、アイデアが豊富でセンスのあるソングライターであることがよくわかる。
荒んだ都市生活、女性蔑視、人種問題など、攻撃的で暴力的な表現や、「戦争しよう!」「家族をぶっ壊す!」などなど、意図的に物議を醸すような歌詞はあるものの、全体的にはユーモアが強いので、活動家みたいな感じはまったくない。
ブルース・ブラザーズのジョン・ベルーシが彼らのファンだったというのもなんとなく頷ける。
レコード・デビュー前の1981年10月には、ジョン・べルーシが当時出演していた番組『サタデー・ナイト・ライヴ』に彼らを強引に出演させている。
観客席にハードコア・パンクのファンたちを招待し、フィアーに演奏させたが、熱狂した観客たちがダイブするなどして観客席や機材を破壊し、放送は途中で打ち切られ、NBCは大損害を被る結果となったという。
↓ フィアーの代表曲であり、アレックス・コックス監督の映画『レポ・マン』でも使用された「Let’s Have a War」。「戦争しようぜ、経済も潤うし、人口も減るし!」と反語的に歌う反戦歌だ。
↓ ガンズ&ローゼズのダフ・マッケイガンが「ベスト・パンク・ソング10選」にも選んだ「We Destroy the Family」。「親父もお袋もくだらない説教をやめろ! 教会も学校も嘘ばっかり! 俺は自由に生きるんだ! 俺たちは家族をぶっ壊す!」と歌う王道反体制ソングだけど、一風変わったサウンドが面白い。
(Goro)