ディオンヌ・ワーウィックは1940年生まれなので、ジョン・レノンとタメである。
アレサ・フランクリンより2歳年上で、1963年にレコードデビューしているので、ローリング・ストーンズと同期ということになる。
わたしが30代前半のころ、それまであまり聴かなかったソウル・ミュージックに目覚め、聴き漁っていた時にこのディオンヌ・ワーウィックに出逢った。
彼女もいちおうR&Bシンガーということになるのだろうが、アレサ・フランクリンのようないわゆるディープなソウルではない。ソウルやR&Bというより、「ポップソング」と言ったほうがふさわしい。
初期のほとんどの曲をバート・バカラックが書き、ワーウィック=バカラックというコンビで60年代にヒットを連発した。
バート・バカラックは1928年生まれで今年で83歳だが、健在である。
もともとはミヨーなどのクラシックの作曲家に師事した本格派で、その後ジャズ、ポップス、映画音楽などを手掛けた、職人的な作曲家である。
代表曲に、映画『明日に向かって撃て』の主題歌でB・J・トーマスが歌った「雨にぬれても」や、クリストファー・クロスの「ニューヨークシティ・セレナーデ」などがある。ディオンヌ・ワーウィックとのコンビでの代表曲としては「小さな願い」「アルフィー」「サン・ホセへの道」「ウォーク・オン・バイ」などが有名だ。
わたしはアレサ・フランクリンなども好きだったのだが、このディオンヌ・ワーウィックを聴いて、これこそわたしが本当に好きな音楽だ、と思ったほどだった。
それをきっかけにディープなソウルを聴き漁るのもわたしのなかで下火となってしまった。ディオンヌのその美しい声もさることながら、バカラックの職人技術によって創られたポップソングがほんとうに良く出来ていて、その面白さにハマってしまったのだ。
そのときにあらためて意識したのだが、わたしはロックだ、ソウルだ、というよりも、それらを含む「ポップソング」全体が好きなのであって、この究極の3分間ポップスのひとつとも言えるワーウィック=バカラックコンビの作品などはまさにツボと言えるのだった。
3分間ポップスと書いたが、このアルバムのなかでもっとも短い曲は2分28秒、もっとも長い曲は3分39秒で、全24曲を平均すると1曲あたり3分01秒である。見事というほかない。
ロックやらソウルやらテクノやらダンスミュージックやらを含む「ポップソング」という音楽は、要するになんでもありの雑多な音楽である。
ビジネス的な戦略や、あるいは日記を書くような軽い気持ちで生産され、忘れられていくものだが、ときどき名曲と呼ばれて長く愛される作品も誕生する。
ポップソングは、いろいろな時代に新しいアイデアや、新しい楽器や、テクノロジーが投入されて、その時代の響きをつくりだして、変化していく。それがまた面白い。
わたしはパンクであれ、メタルであれ、演歌であれ、きっとひとつのポップソングとしてしか聴いていないのだろう。
パンクは非常にポップなメロディーと疾走感とノイジーなギターの組み合わせが面白くて、わたしには好きな名曲が多い。
ヘヴィメタルや演歌はわたしにとってはちょっとクセが強いポップソングであるが、名曲だってもちろんある。
ジャンルも関係なければ、その時代も、過去の名曲であれ最新の名曲であれ、どちらも同じように輝きを放っているものだ。
古いとか新しいとか、そういう差はもうわたしにはもうほとんど意味はない。時代の違いやジャンルの違いも、単にその曲の個性にすぎない。
ディオンヌ・ワーウィックはチェーン・スモーカーとしても有名だ。
その昔キース・リチャーズが、こう言った。
「ディオンヌ・ワーウィックはチェーン・スモーカーで、ひっきりなしにタバコを吸い続けている。なのにあの声だぜ。あれを聴いたらおれももっとタバコを吸おうと思うぜ!」
71歳になった今も、ディオンヌ・ワーウィックは現役で歌っている。
日本にも何度も来ていて、今年の6月にも、ホテルオークラ東京とブルーノート東京で4日間のライブを行っている。