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Dinosaur Jr.
“You’re Living All Over Me” (1987)
1991年、ニルヴァーナが『ネヴァーマインド』というロック史上における最大級の爆弾を投下してロックシーンをひっくり返した、いわゆる〈オルタナティヴ・ロック革命〉には、そこに至るまでの導火線の役割を果たした存在があった。
その最初の着火点は遡ること4年前、1987年12月にリリースされた本作だったとわたしは思う。その3ヶ月後にリリースされたピクシーズの1st『サーファー・ローザ』がこれに続いたが、ピクシーズは次回取り上げるとして、今回は米マサチューセッツ州出身の、J・マスシス率いるダイナソーJr.である。
ダイナソーJr.をわたしが知ったのは1989年頃だ。
80年代のメインストリームのロックが嫌いで嫌いで、古い音楽ばかりを聴いていたわたしの興味をリアル・タイムのロックへと引き戻すきっかけとなったのが彼らだったと言っても過言ではない。そのため思い入れが深い。
そこには商業主義的な華やかさなど一切なく、電子楽器のピコピコパコパコというクソみたいな音もなく、唖然とするほど殺伐としながらも、聞き手を楽しませるメロディがあり、ロック本来のリアリティがあった。
85年発表の彼らの1stアルバムは、その片鱗は窺えるものの、まだまだ恐竜の赤ちゃんみたいなもので、その狂暴性を発揮するには至っていなかった。
しかし2年後の1987年12月に発表されたこの衝撃の2ndアルバムで、恐竜は耳をつんざくような咆哮と共についに覚醒する。
ブラック・フラッグのグレッグ・ギンが設立したインディ・レーベル、SSTからリリースされたが、きっとこんな無茶苦茶な轟音ギターをうまく録音できる録音エンジニアなど当時はいなかったのだろう。音は安っぽくてひどいものだが、それがまた恐竜の異形の姿を際立たせているとも言える。
【オリジナルCD収録曲】
1 Little Fury Things
2 Kracked
3 Sludgefeast
4 The Lung
5 Raisans
6 Tarpit
7 In A Jar
8 Lose
9 Poledo
ニール・ヤングがハード・コアに転向して凶暴化し、より俊敏さと性急さを増したような音楽性は、わたしを熱狂させた。
凄まじいエネルギーの放射と狂乱の疾走感は今聴いても痛快だ。ダイナソーJr.は、80年代ロックの閉塞感を打ち破り、一点突破した、まさに異形の怪物だった。
本作をソニック・ユースが絶賛したことから、ダイナソーJr.は脚光を浴びることになった。
英国でも高く評価され、その洗礼を浴びたのがマイ・ブラッディ・ヴァレンタインだった。
ギター・ロックの復権、そしてメロディの復権。特別なメッセージはなにも発していなくても極めて先鋭的な抵抗の音楽であり、乾いたユーモアとポジティヴな哀愁に満ちている愛すべきリアル・ロックだ。
ちなみに、J・マスシスは2016年のインタビュー企画でダイナソーJr.の全アルバムをランク付けし、本作を1位に挙げている。
↓ オープニングを飾る衝撃的な「Little Fury Things」。凶暴なイントロから一転して哀愁の歌メロ、そしてエンディングでふたたび津波のように襲ってくる轟音ギターと、90年代のオルタナ・ロックの雛形のようなスタイルだ。
↓ J・マスシスお得意のペダルを踏む足技も楽しい、ポジティヴな熱狂の「Kracked」。
(Goro)