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David Bowie
“Heroes” (1977)
「鬼才」という言葉が何より相応しい4人の男たちが、まるで映画『アベンジャーズ』みたいに結集して制作された、デヴィッド・ボウイの11枚目のアルバムだ。
鬼才デヴィッド・ボウイの呼びかけでベルリンに結集したアベンジャーズのメンバーは、シンセサイザーを担当した鬼才ブライアン・イーノ、エレキギターを担当したキング・クリムゾンの鬼才ロバート・フリップ、そしてプロデューサーを務めた鬼才トニー・ヴィスコンティであった。
前作『ロウ』からわずか9ヶ月のインターバルで1977年10月にリリースされた本作は、ドイツのクラウト・ロックの影響を受け、シンセサイザーを駆使し、LPのB面にインスト曲を並べるなど、『ロウ』の姉妹編のような作品である。しかし、『ロウ』がどこかおっかなびっくりの実験室風だったのに比べ、こちらは鬼才アベンジャーズが縦横無尽に暴れまわるような、振り切れた爽快感がある。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 美女と野獣
2 ライオンのジョー
3 ヒーローズ
4 沈黙の時代の子供たち
5 ブラックアウト
SIDE B
1 V-2 シュナイダー
2 疑惑
3 モス・ガーデン
4 ノイケルン
5 アラビアの神秘
「これからはシンセサイザーの時代だな」とボウイが思っていたとしたら、やはり先見の明が凄いとしか言いようがない。実際、ロックシーンはこのときパンク・ロックが席巻していたのだけれども、ボウイはもはやその次にやってくるはずの〈ニュー・ウェイヴ〉を先駆けているのだ。
A1「美女と野獣」のファンキーかつ新鮮な響きのカッコ良さにいきなり惹き込まれる。B面のインストでは、親日家だったボウイが日本をイメージして自ら琴を弾いたB3や、自らサックスを吹いたB4などもある。
余談だが、ボウイはプライベートで何度も来日し、京都には行きつけの喫茶店もあったほどだが、その喫茶店のマスターの息子というのが、わたしの会社員時代の部下の一人であり、ある飲み会の席で突然、赤ん坊の頃にボウイに抱っこされている写真を見せられて驚愕したものだった。
タイトル曲の「ヒーローズ」はシングル・カットされたものの、全英24位と大きなヒットには至らなかった。しかし現在では、ボウイの最も有名な代表曲となっている。銃弾が飛び交う「壁」の前でキスをする恋人同士をイメージし「僕らだって英雄になれる、一日だけなら」と歌われる。
不思議な曲だ。どこがそんなにいいのかと言うのはとても難しいけれども、なぜかこの曲には抗いがたい魅力がある。
1987年6月6日、西ベルリンの「壁」の前の広場でボウイは野外コンサートを開催した。このとき、ボウイはPAの4分の1を壁に向けて、つまり東ベルリンに向けて設置した。
ボウイの歌声は実際に東側に届き、「『ヒーローズ』を歌ったとき、壁の向こう側から歌声が聞こえた」と彼が後に語った通り、そのとき5千人もの東ベルリンの若者たちが壁の前に集まっていたのだ。彼らを取り囲む警官隊たちは顔色を変えていた。それまで表立って権力に逆らったことのなかった圧政政治下の若者たちが、興奮のあまり信じられない言葉を口にしていたのだ。
「俺たちを、ここから出せ!」
彼らの決死の思いがこのとき、世界を分断した冷戦時代の象徴であったベルリンの壁に風穴を開けたに違いない。
逮捕者も出たこの時の騒ぎがきっかけで、若者たちを中心に「自由」を希求するムードが一気に高まり、デモ活動が活発化し、ついには壁の崩壊、そして東西ドイツの統一へとつながっていったのだった。
2016年1月にボウイが死去した際、ドイツ政府は「あなたは今、ヒーローズの一員になりました。壁の崩壊に力を貸してくれてありがとう」と感謝の意を表して追悼した。
↓ アルバムのオープニングを飾る「美女と野獣」。
↓ ボウイの代表曲として世界中で愛された「ヒーローズ」。
(Goro)