⭐️⭐️⭐️⭐️
“Crazy Heart”
監督:スコット・クーパー
主演:ジェフ・ブリッジス、マギー・ギレンホール
音楽:T=ボーン・バーネット
ついこのあいだ見たような気がするのに、この映画ももう10年前なのか。なんだかもう、あっという間に年を取るなぁ。
しかし、10年歳を取って主人公の年に近づいてからもう一度見直すと、この過去の栄光に縋って生きる自堕落な男の哀愁溢れるストーリーにさらに感情移入がしやすくなっていることに気づく。
かつてはヒット曲も人気もあり、若いアーティストからもリスペクトを受けるカントリー・シンガーのバッド・ブレイク。
4度の結婚と離婚を繰り返し、全盛期を過ぎて現在はドサ回りをする暮らしだが、酒に溺れて演奏もままならない状態の自堕落な生活をする57歳だ。
その彼が若いシングルマザーと恋に堕ち、自分を見つめ直して生活を立て直し、新曲を書き始める、という物語だ。
これはダメ男が女に救われる話だな。
なんといってもバッド・ブレイクを演じるジェフ・ブリッジスが素晴らしい。本物の自堕落カントリー歌手かと見紛うほどだ。
やっぱり俳優も、売れて大忙しの時期を過ぎ、年を重ねてちょっと仕事が減ってからぐらいのほうが、見た目も演技も熟成してより良い味が出るというものだ。
どちらも結婚に失敗している者同士が、また同じ失敗を繰り返すことを恐れながらも、大人気なく惹かれて夢中になっていく、ちょっと見ていて恥ずかしいぐらいの大人同士の恋愛がリアルで良い。身につまされたりなんかして。
なんとなく、ミッキー・ロークの『レスラー』を思い出した。
プロレスラーとカントリー・シンガーとの違いはあるけれど、どちらも全盛期を過ぎてやさぐれた男が、自分を見つめ直し、自分を変えて、再起する物語だ。
時は残酷なほどのスピードで過ぎ去り、人はあっという間に年を取り、時代の変化のスピードに置いてきぼりになり、人生の寂しく哀しい下り坂を経験する、というわけだ。スーパースターともなると、その下り坂の角度がわれわれ一般人とは比較にならないほどの急勾配になるのかもしれない。
『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』と同じ、T=ボーン・バーネットによる音楽もとても良い。
ジェフ・ブリッジスの歌は上手いわけではないけれども、かつてのカントリー・シンガーが自堕落に年を取って劣化している感じそのままでぴったりだし、ライヴで披露するかつてのヒット曲はちゃんと、才能あるソングライターが過去に書いたような名曲、という感じで感心する。
そして物語の最後に新曲として書いた「The Weary Kind」は、シンプルながら魂から生まれた光を放つ、静かな感動を呼ぶ曲だ。
その新曲を唄う、コリン・ファレル演じる若きカントリー・シンガーのスター、トミー・スウィートがまた良いな。あんなやつがいたらきっと間違いなくファンになるなあ。
スコット・クーパーという監督はこの作品と、ジョニー・デップの『ブラック・スキャンダル』を見たけれど、美しくて節度のある映像を撮る、才能ある監督だ。