⭐️⭐️⭐️
Cocteau Twins
“Treasure” (1984)
英スコットランド出身のエリザベス・フレイザー(Vo)、ロビン・ガスリー(G、ドラムマシン)、サイモン・レイモンド(B)の三人によるバンド、コクトー・ツインズは、一般的にはあまり有名ではないけれども、英国インディー・ロック史に多大な影響を及ぼした。
本作は、彼らがギターのリヴァーブとディレイを多用するなどして、煌めき、はじけるように音が広がり、浮遊感のある幻想的な音響世界を創造した、後のシューゲイザーの”母”とも言うべき存在である。”父”はたぶん、同じくスコットランドの、ザ・ジーザス&メリー・チェインだろう。
曲のタイトルには、神話や伝承などから取られた謎めいた言葉が使われているけれども、歌詞には一切関係がない。というか、歌詞も無いに等しい。エリザベスが歌っているのは、意味のある言葉だけではなく、実在しない言葉も含まれている。声もまた楽器のひとつとして、この夢幻の音響世界の一部に過ぎないのだ。
本作はコクトー・ツインズがその独自の音響世界を確立した、1984年11月に4ADからリリースされた3rdアルバムである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 アイボ
2 ローレライ
3 ベアトリクス
4 ペルセフォネ
5 パンドラ
SIDE B
1 アメリア
2 アロイシウス
3 シセリー
4 オタリー
5 ドニモ
アルバムは英インディ・チャートの1位に輝き、彼らの代表作となった。
ヴォーカルのエリザベスはほぼすべて、即興で歌っている。彼女は次のように語っている。
「あの時期は感情が爆発していた。言葉よりも音が先にあって、歌詞は自然に口から出た響きだった」(『4AD 1980–1990』1990年刊)
本作で、比類ない独創的な新世界を一から創り上げた割には、男子メンバーたちのほうはどちらも自己評価が低い。ギターのロビンは次のように語っている。「正直に言うと、あの頃の俺たちはまだ十分に経験を積んでなかった。『トレジャー』は、いま聴くと完成度が低い部分もある。でもファンはあれを愛してくれているんだよね」(ガーディアン誌インタビュー2005年3月)。
もしかすると、意図していたものとは違ったものになったのかもしれないが、われわれはそんなひょうたんから駒みたいに生まれた、圧倒的に美しく、かつ邪悪な音響世界に酔いしれるのである。
↓ コクトー・ツインズの中でも最も人気の高い代表曲のひとつ「ローレライ」。
↓ わたしが一番好きな、アルバムのラストを飾る「ドニモ」。
(Goro)