⭐️⭐️⭐️
Chuck Berry
“After School Session” (1957)
1955年、自動車工場で働きながら地元のセントルイスでバンド活動をしていた28歳のチャック・ベリーは遠路シカゴを訪れた。最も敬愛するマディ・ウォーターズのステージを観た後で、ファンに囲まれていたマディと話せるチャンスが訪れた。
チャックは憧れの神様の前で緊張しながら、曲の素晴らしさを絶賛し、そして「レコードを作るにはどうしたらよいのか」と尋ねた。
マディは「47丁目の角にあるチェスレコードのレナード・チェスに会ってみろ」と答えたという。チャックはもちろん、その通りにした。
チェスレコードはシカゴブルースの総本山だ。にもかかわらず、経営者のレナード・チェスは、チャック・ベリーが書いたブルース・ソングには興味を示さなかったという。そのかわり、チャックのカントリー風の曲に興味を惹かれたという。黒人がカントリーを歌うのが面白いと思ったのだ。
それからわずか2ヶ月後の1955年7月、チャック・ベリーはカントリー風のタテノリが特徴的なシングル「メイベリーン」でチェスレコードからデビューする。それが全米5位の大ヒットとなり、100万枚以上を売り上げ、一躍レーベルの稼ぎ頭となったのだ。
機が熟していたということもあるだろうが、奇跡のような偶然にも思える。
その前年、テネシー州メンフィスのレーベル、サン・レコードでは黒人のR&Bやブルースを歌う白人、エルヴィス・プレスリーという若者が発見された。そしてイリノイ州シカゴのレーベル、チェスレコードでは白人のカントリーを歌う黒人、チャック・ベリーが発見され、2人の白人と黒人が共に「ロックンロール」と呼ばれる新しい音楽の象徴として若者たちを熱狂させるのだ。この2つの発見は、20世紀最大の発見に数えられていいはずだ。
ブルースの神様がロックンロールの神様となる人物にその道を示したことも神話の一説のようだし、まだ人種的な対立や差別が厳然として残り、コンサート会場の客席も白人と黒人の席が柵で分けられていた時代に、黒人側からも白人側からも、それぞれが歩み寄り、お互いの音楽を融合させたことで新しい音楽が生まれ、それが世界中を巻き込んだ熱狂的なお祭り騒ぎにまで発展するなんて、まさに壮大な神話の創世記のようではないか。
本作はチェスレコードにとって2作目となるLPレコードであり、チャック・ベリーの1stアルバムだ。ちなみにチェス・レコードが最初に発売したLPレコードは『ロック、ロック、ロック』というこれまたなんとも象徴的なタイトルの映画のサウンドトラックで、この映画にはチャック・ベリーも出演している。
本作は1957年5月にリリースされた。すでに7枚のシングル・レコードをリリースしていたチャックの、シングルデビューから1年10ヶ月後のアルバム・デビューというのは今の感覚からはやけに遅い感じがするが、当時はアルバムよりもシングルが中心の時代だったのだ。
【収録曲】
SIDE A
- スクール・デイズ (全米3位)
- ディープ・フィーリング (インスト A1のシングルB面)
- トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス (米R&B4位)
- ウィー・ウィー・アワーズ
- ローリー・ポーリー (インスト)
- ノー・マネー・ダウン (米R&B8位)
SIDE B
- ブラウン・アイド・ハンサム・マン (A3のシングルB面)
- ベリー・ピッキン (インスト)
- トゥゲザー(ウィル・オールウェイズ・ビー)
- ハヴァナ・ムーン
- ダウン・バウンド・トレイン (A6のシングルB面)
- ドリフティング・ハート
「ヘイル!ヘイル!ロッケンロール!」のフレーズで有名なA1「スクール・デイズ」から始まるのがたまらない。そしてシングルヒットしたA3、A6、B1にわたしの好きなラテン風のB4が入っているのも嬉しい。
A2、A5、B2はいかにもレコードの溝を埋めるためのインストという気がしないでもないけれども、しかしA2ではチャックの演奏するスティール・ギターも聴ける。
バックの演奏は、デビュー前からバンド仲間だったピアニストのジョニー・ジョンソン、そしてベースのウィリー・ディクソン、ギターのジミー・ロジャース、ドラムのフレッド・ビロウといったチェス・スタジオの強力布陣が支えている。
まあチャック・ベリーを聴くならわれわれの世代でもまずベスト盤から入ったものだし、だいたいそれで満足して終わるものだが、40年経ってもまだチャック・ベリーを聴き続けているわたしぐらいの域に達するともうベスト盤もとっくに飽きたので、こんなオリジナル・アルバムを聴く方がずっと楽しい。
そして当時このレコードを聴いた若者たちはどんな気分だっただろうと思いを馳せる。
あの当時にチャック・ベリーやエルヴィスの、出来立てほやほやの音楽「ロックンロール」がレコードやラジオから流れた瞬間、彼らはどれだけぶっとんだことか。どれほど興奮したことか。きっと世界が変わるほどの出来事だったに違いない。
その瞬間を体験できたあの世代が、わたしにとっては世界で最もうらやましい人々なのだ。
↓ 全米3位となった「スクール・デイズ」。チャックのドキュメンタリー映画『ヘイル!ヘイル!ロックンロール!』のタイトルはこの曲の歌詞から取られている。
↓ 米R&Bチャート4位のヒットとなった「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」。サビの前で、関西弁の放送禁止用語みたいに聴こえる部分もあるが、さすがに空耳アワーでも採用されないだろうな。
(Goro)