カレン・カーペンターはポップス史上最高の女性ヴォーカリストのひとりだとわたしは思っている。
よく伸びる高音を武器にする女性ヴォーカリストは多いが、カレンはその低音の美しさに比類が無い。そのうえ天才的なリズム感も感じさせ、いつ聴いてもその声の生々しい魅力に鳥肌が立つような感覚を覚える。
兄のリチャード・カーペンターは作曲家としても素晴らしい才能を発揮したが、妹カレンの声を引き立たせた編曲でもまた最高の仕事をしている。カレンも天才だが、それに劣らぬほど、兄リチャードもまた天才だったのだ。
1969年にカーペンターズはレコードデビューして数々のヒット曲を世に送り出した。日本でも洋楽アーティストとしては別格的な人気を誇った。日本における洋楽アーティストのシングルの売り上げは、ビートルズを抑えてカーペンターズが1位である。
1983年、33歳でカレンが早逝して、カーペンターズは消滅する。
しかしその比類なく美しい声と完成度の高い楽曲には、時代を超越できる芸術性があるとわたしは思っている。
バッハやモーツァルトの名曲ように、100年後、200年後の世の中でもポピュラー音楽史上最も美しい作品のひとつとして聴き継がれていると思うのだ。
Superstar (1971)
作詞・作曲:レオン・ラッセル、ボニー・ブラムレット
オリジナルは、バンドマンに対するグルーピーの恋心を歌ったデラニー&ボニーの「グルーピー」という曲。カーペンターズ・バージョンではドギツい表現の歌詞を変えて、ファンのせつない恋心ということになっている。
全米2位、全英18位、日本では7位と初めてオリコンチャートベスト10入りを果たし、彼らの名前を広めることになった名曲だ。
For All We Know(1971)
作詞・作曲:フレッド・カーリン、ジェイムス・グリフィン、ロブ・ロイヤー
1970年公開のアメリカ映画『ふたりの誓い』の挿入歌で、ラリー・メレディスが歌い、アカデミー歌曲賞を受賞した曲。カレンとリチャードはたまたま一緒にこの映画を映画館で観て、この歌を歌ってみることにしたという。全米3位、全英18位の大ヒットとなった。
This Masquerade (1973)
作詞・作曲:レオン・ラッセル
アルバム『ナウ・アンド・ゼン』に収録され、「プリーズ・ミスター・ポストマン」のシングルのB面にも収録された曲。
カレンのヴォーカルはいつにも増して大人の雰囲気でエレガントに歌う。ため息が出るほどの美しさだ。
Only Yesterday (1975)
作詞:ジョン・ベティス 作曲:リチャード・カーペンター
ジョン・ベティスはリチャードの大学時代の親友で、カーペンターズの名曲にはこのコンビによるものが多い。
この曲もまたポップスのお手本のような、大胆なメロディの素晴らしさに聴き惚れる。カレンの声も輝きを帯びているような、爽やかな風が吹き抜けるような名曲。
全米4位、全英7位、日本でもオリコン総合12位の大ヒットとなった。
Please Mr Postman (1974)
作詞・作曲:ウィリアム・ギャレット
モータウンの女性コーラスグループ、マーヴェレッツのデビュー曲で、全米1位を獲得した大ヒット曲。ビートルズによるカバーでさらに世界的に有名になった。カーペンターズ版でも全米1位、全英2位、日本のオリコンでも総合11位まで上昇し、カーペンターズでは最も売れたシングルとなった。
カーペンターズがカバーするとたいてい原曲を超えてしまうものだが、これもまた素晴らしい出来だ。
Hurting Each Other(1972)
作詞:ピーター・アデル 作曲:ゲイリー・ゲルド
アメリカのポップス・シンガー、ジミー・クラントンのシングルとして1965年にリリースされた曲。しかしセールスは不調に終わった。
その後、ルビー&ザ・ロマンティックスが1969年にシングルリリースし、カーペンターズはこちらのバージョンを手本にしていると思われる。カーペンターズ版は、全米2位の大ヒットとなった。
Close To You
作詞:ハル・デイヴィッド 作曲:バート・バカラック
カーペンターズの出世作となった、彼らの初めての大ヒット曲。全米で4週連続1位、全英でも6位の大ヒットとなった。
バート・バカラックという稀代のメロディ・メーカーの手による作品だ。バカラックのメロディには、大衆的なポップスでありながら、同時になんとも言えない気品があるのが魅力だ。
I Need to Be in Love (1976)
作詞:ジョン・ベティス 作曲:リチャード・カーペンター
日本では1995年にTVドラマ『未成年』のエンディング曲として使われてから、リバイバルヒット(オリコン5位)し、一躍有名になった。
兄リチャードによれば、カレンが最も気に入っていた曲だという。
これ以上はないぐらい爽やかで美しいサビのメロディに、日頃聴いている変態みたいなロックで汚れた心が洗われるような気分になる。
Yesterday Once More (1973)
作詞:ジョン・ベティス 作曲:リチャード・カーペンター
カーベンターズの代名詞ともなっているような、彼らの代表曲だ。全米2位、全英2位、日本でもオリコン総合5位と、日本での最高位を記録している。
この当時、ラジオを中心に50~60年代のオールディーズのリバイバルブームがあったようで、この曲はそのブームがとても嬉しいと歌っている。
この曲もカレンの美しい低音から始まる。
When I was young I’d listen to the radio …
この歌い出しの瞬間は思わず鳥肌が立つほどだ。
Top Of The World (1971)
作詞:ジョン・ベティス 作曲:リチャード・カーペンター
「トップ・オブ・ザ・ワールド」というのはべつに売れて天狗になってる歌ではなくて、「あなたを愛しているから、世界のてっぺんにいる気分」という、恋する気持ちを歌った歌だ。
しかし、文字通りこの曲は全米1位、全英5位の世界的ヒットとなり、彼らはポップス界の頂点を極めたのだった。
カーペンターズのアルバムを最初に聴くならやはりベスト盤からがいい。
『未成年』でのリバイバル・ヒットに合わせて発売された日本独自のベスト盤『青春の輝き~ベスト・オブ・カーペンターズ』はなんと350万枚というとんでもない売り上げを記録した。内容も完璧だった。
他には『ゴールド~グレイテスト・ヒッツ』もおススめです。
(Goro)