バズコックスの中心人物ピート・シェリーは、ロンドンで見たセックス・ピストルズに衝撃を受け、地元のマンチェスターにセックス・ピストルズを呼ぶ計画を立てた。
それが実現したのが1976年6月4日のマンチェスターのレッサー・フリー ・トレード・ホールにおける、セックス・ピストルズにとっても初めてのメイン・アクトとしてのライヴだった。
観客はたったの42人だったが、その中には、モリッシーや、後のジョイ・ディヴィジョンのメンバー、後のシンプリー・レッドのメンバーなどがいた。
「ピストルズのギグにはZTTのポールモーリーや、モリッシーとか今のマンチェスターの主な奴は全員いた」とピート・シェリーは語り、「あの日にパンクロック分子がバラ撒かれたのは間違いない」とスティーヴ・ディグルは語った。
そのパンクロック分子を受け継いだ最初のバンドがシェリーとディグルを中心としたバズコックスだった。
バズコックスは、自分たちでバンドを作って曲を書いたのはもちろん、自分たちでライヴを主催し、自分たちでレーベルを立ち上げ、自分たちで販売するという、パンクのD.I.Y.精神を体現したバンドだった。
その後、彼らに続いてマンチェスターから続々と出てきたアーティストたち、ジョイ・ディヴィジョン(~ニュー・オーダー)、ザ・スミス、ストーン・ローゼス、ハッピー・マンデーズ、そしてオアシスなどには、各々音楽スタイルは違っても、パンク分子は共通して引き継がれている。
彼らによってマンチェスターは80~90年代の英国ロック・シーンの中心となっていくが、すべてはバズコックスから始まったと言っても過言ではない。
一般的にはセックス・ピストルズやクラッシュほどの知名度はないけれども、バズコックスがいくつかの名盤と山ほどの名曲を生みだしたことはパンク好きなら誰でも知っている。
わたしはその3つのバンドを70年代UKの3大パンク・バンドだと思っている。
以下は、わたしが愛するバズコックスの至極の名曲ベストテンです。
Whatever Happened To…?
彼らの1stシングル「オーガズム・アディクツ」のB面として発表された曲。
スティーヴ・ディグルの作で、イントロのゴリゴリとしたベースからいきなり興奮させられる、MC5ぐらいハードな曲だ。
I Don’t Mind
1stアルバム『アナザー・ミュージック(Another Music in a Different Kitchen)』からのシングル。
ピート・シェリーの作で、彼らしいポップ・センスが炸裂したラヴ・ソング。パンク・バンドなのにこういう曲が書けるのがバズコックスの強みだ。
Orgasm Addict
自主レーベルから出した「ボーダム」から10か月後、メジャー・デビューとなった1stシングルがこの曲。
「オーガズム中毒」という思春期の苦悩(笑)を歌った1分58秒の強烈なインパクトのこの曲は、当然ながらBBCでは放送禁止となった。
Fast Cars
1st『アナザー・ミュージック』のオープニング・トラック。キレのいいサウンドと疾走感がたまらない。
「速い車なんて嫌いだ」と歌う、安全よりも商業主義を優先する政治への批判をした歌らしい。
Harmony in My Head
1979年のシングルで、全米32位。スティーヴ・ディグルの作で、彼らしいハードな楽曲だ。メロディもいい。
リード・ヴォーカルもディグルがとっているが、レコーディングのときには声に不機嫌な感じを出すためにタバコを20本吸ってから歌ったそうな。
What Do I Get?
彼らの2ndシングルで、全英37位と初めてのチャート入りを果たした曲。
ピート・シェリーの曲で、彼らしいポップセンスが溢れすぎて、パンクの枠を超えて、パワー・ポップや後のブリット・ポップみたいにも聴こえる。
Autonomy
1st『アナザー・ミュージック』収録曲で、アルバムのハイライトのひとつだ。
リード・ヴォーカルはピート・シェリーだが、書いたのはスティーヴ・ディグルで、彼らしいハードなギターとキャッチーなリフに、ポップな歌メロが絡み合って、オリジナリティ溢れる傑作になっている。
Promises
バズコックス7枚目のシングルで、全英20位のヒットとなった。まるでビートルズのようなキャッチーなメロディのラヴ・ソングだ。
ラウドでありながらポップでもあるという、バズコックスは後の90年代のメロコアやポップ・パンクの元祖とも言えるだろう。
Boredom
自主レーベルから発売した4曲入りデビューEP『スパイラル・スクラッチ(Spiral Scratch)』収録曲で、初期の代表曲。
1977年1月という、パンク・シーンが爆発した年の年初から「こんなシーンなんて平凡で退屈なものだ」と歌う醒めた視線と知性がバズコックスらしい。
Ever Fallen in Love
2nd『ラヴ・バイツ(Love Bites)』からのシングルで、全英12位と、彼らの最大のヒットとなった代表曲だ。
ピート・シェリーの最高傑作として知られるこの曲は、彼らしいポップでキャッチーなメロディーで書かれた、パンクを超えた、ロック史に残る名曲だ。
以上、バズコックス【名曲ベストテン】BUZZCOCKS Greatest 10 Songsでした。
バズコックスの中心人物であるピート・シェリーは、残念ながら2018年12月6日、心臓発作によって63歳でこの世を去った。
その後はスティーヴ・ディグルが中心となって、バズコックスは現在も存続している。
入門用にバズコックスのアルバムを最初に聴くなら、『シングルズ・ゴーイング・ステディ(Singles Going Steady)』がお薦め。現在はDeluxe Versionとしてオリジナルでは漏れていた代表曲がさらに追加され、最初に聴くべき曲はすべて網羅されています。
また、35周年記念としてすべて新録で発表したベスト・アルバム『ア・ディファレント・コンピレーション~ベスト・オブ・バズコックス(A Differrent Compilation)』もお薦めだ。
新録というとだいたい余計なことをして過去の名曲を台無しにするパターンが多いけど、ここではほぼオリジナルの通りに演奏され、よりラウドで、スピード感もライヴ感も増した、素晴らしい演奏だ。これこそ35年間のライヴ活動の成果だろう。
「ボーダム」が入っているのも嬉しいし、ここからバズコックスを聴き始めるのも全然アリだと思う。
(by goro)