Buggles
“The Age of Plastic” (1980)
いよいよこの【最強ロック名盤500】も1980年代に突入である。
そしてその1発目は計らずも、1980年1月にリリースされ、まるでその後の80年代の音楽シーンを見事に予言したような、バグルスの1stアルバムである。ちなみに発売当時の邦題は『プラスティックの中の未来』だったけれども、現在は『ラジオスターの悲劇』に変わっている。
本作に収録された「ラジオ・スターの悲劇」は、イギリスをはじめヨーロッパ各国でチャートの1位を獲得する世界的ヒットとなった。
日本でもヒットし、当時わたしは中学生で、この曲がラジオから流れてくるのを何度も聴いた。歌詞の意味は当時はよくわかっていなかったかもしれないけれども、キャッチーなメロディと、当時は斬新だったシンセ・ポップ・サウンドが楽しい、大好きな曲だった。
しかし逆にこの1曲のイメージが強すぎて、バグルスを一発屋のおふざけバンドだと思いこみ、アルバムまで聴こうと思ったことはその後もなかった。
今回初めて本作を聴いてみて、意外と言っては失礼だけれども、英国らしいポップ・センスが光る、捨て曲なしの充実した楽曲群、今聴いても新鮮でよく練られたサウンド、確固とした世界観を持ったオリジナリティあふれる名盤だと、遅まきながら気づかされたのだった。おふざけバンドなんかではもちろんなかったし、一発屋で片付けられるようなレベルのものでもなかった。
バグルスは英ロンドンで結成された、ヴォーカルとベースを担当するトレヴァー・ホーンと、キーボードのジェフ・ダウンズによるユニットである。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 プラスティック・エイジ
2 ラジオ・スターの悲劇
3 キッド・ダイナモ
4 アイ・ラヴ・ユー、ミス・ロボット
SIDE B
1 クリン・クリン
2 思い出のエルストリー
3 アストロボーイ
4 モノレールのジョニー
「ラジオ」はもともと、音楽を世に広める大きな役割を担っていたが、やがてテレビに押され、そしてこの時代にはその座を「ミュージック・ビデオ」に取って替わられようとしていた。
「ビデオがラジオのスターを殺してしまった」と繰り返し歌われるこの歌は、ポップ・ミュージックの聴かれかたや需要の変化、今後の音楽シーンのパラダイムの転換について鋭く本質を突いていた。端的に言えば、「これからの音楽は、見た目で売れる時代だよ」ということが予言され、翌年の1981年にMTVが開局されたことで、予言は見事に的中したのであった。
そのMTVで最初にオンエアされたミュージック・ビデオがこの曲だったというのは、まるでブラック・ジョークみたいな本当の話だ。そしてさらに1年後には、マイケル・ジャクソンの「スリラー」のMVがヘビロテとなり、世界中に「MTV」という媒体を認知させたのだ。
MTVが人々の耳目を集め、ラジオに替わって世に音楽を広める最も強大な装置となってからは、売れる音楽のタイプも急激な勢いで変わったものだ。
そして本作はまた、MTV時代の到来の予言だけでなく、そのサウンド面でも時代の先鞭をつけ、その後のシンセ・ポップの大流行を予言しているようにも聴こえる。
しかしこの予言はわたしには「ポップ・ミュージックもこんなふうになっちゃうんだよ。。本当に未来社会って人類にとって今より幸福なものなのかな。。」といくぶん冷笑的に聴こえる。その哀しげな、切ない感じがまたこのアルバムの魅力でもあるのだ。
ドラムをマシンではなく、人間が叩くドラムにこだわってわざわざゲスト・ドラマーを招いているところなどは、電子楽器をメインに使いつつも、サウンドの質感には細部までこだわっていることがよくわかる。
思えば、あの80年代ぐらいまでは「この先の未来は、どんな世界になるのか」ということに人々は興味津々であり、想像をめぐらせたものだった。ユートピアなのか、ディストピアなのか。本作にもやはり、そんな想像から生まれる興奮と恐怖が入り混じっている。
でも今の時代はもう「未来はどんな世界になるのか」なんてあまり語られないし、人々はそんなことにあまり興味がなさそうに思える。
現代はすでに充分に未来的であり、もはやわれわれの理解が追いつかないほどだ。
昭和の時代に夢想された未来、宇宙旅行や、自動で運転してくれるクルマや、面倒な家事も仕事もすべて代わりにやってくれるコンピューターなどはどんどん実現されていくものの、しかしそれらの恩恵に預かれるのはほんの一握りの者たちで、われわれ平民は昭和の時代と大して変わらない仕事や生活のままだということもとうにわかっているのだ。
AIがどんどん生活の中で実用化されていく現状を「無償で働いてくれる1,000億人の人が住む島を発見したようなもの」と表現した人がいたけれども、それに象徴されるように、表面的には合理的で便利でユートピア的であり、しかしその裏側は、生身の人間はコストのかかる厄介者のような、冷厳で非人間的なディストピア的であるようにも思える。
本作を聴いていると、今ではとっくに忘れてしまった、未来への尽きることのない興味や夢想、進化や新しさへの飽くなき追求の時代の、あのワクワクする感じもノスタルジックに思い出させてくれるのだ。
↓ 世界的ヒットとなった代表曲「ラジオ・スターの悲劇」。
↓ シングル・カットされた「クリン・クリン」。疾走感のあるエネルギッシュなポップ・ロック。
(Goro)