ボビー・ジェントリー『オード・トゥ・ビリー・ジョー』(1967)【わたしが選ぶ!最強ロック名盤500】#114

Ode to Billie.. -Deluxe- [Analog]

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【最強ロック名盤500】#114
Bobbie Gentry
“Ode To Billie Joe” (1967)

米ミシシッピ州出身のボビー・ジェントリーは、米ポピュラー音楽史上で初めて、作詞・作曲・プロデュースをすべて務めた女性歌手だ。言わば女性シンガー・ソングライターのパイオニアである。

当時の男社会の音楽業界に殴り込みをかけた硬骨女といった感じだが、実際、音楽はもちろん、ジャケットのアートワークまですべて彼女自身で仕切ったにも関わらず、プロデューサーとして名前が載せてもらえたのは、1971年のラスト・アルバムだけだった。

彼女はもともと、他の歌手のために歌を書くソングライターになりたいと考えていて、自作の曲をデモテープに録音してキャピトルに売り込んだことが始まりだった。

キャピトルのプロデューサー、ケリー・ゴードンは「ミシシッピ・デルタ」を気に入り、彼女のデモ録音をそのままシングルとしてリリースすることにした。

B面に選ばれた「オード・トゥ・ビリー・ジョー」のデモにアレンジを施すようゴードンがジミー・ハスケルに依頼すると、彼は弦楽六重奏で、映画のスコアのように歌詞の物語を盛り上げるアレンジを加えた。ゴードンは完成したバージョンを聴き、「オード・トゥ・ビリー・ジョー」のほうをA面にすることに考えを改めた。そんな紆余曲折を経て1967年7月にリリースされた彼女のデビュー・シングル「オード・トゥ・ビリー・ジョー」は、いきなり全米1位の大ヒットとなった。

本作はその大ヒットを受けて、彼女が最初に持ち込んだデモテープの残りの曲にそのままアレンジを施して、シングル・デビューから1ヶ月で発売にこぎつけた1stアルバムである。アルバムは予約だけで50万枚を超え、その時点まで全米アルバムチャートのトップに15週間君臨していたビートルズの『サージェント・ペパーズ』を蹴落として、1位に輝いた。

アルバムは全曲ボビー・ジェントリーの作詞・作曲である。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1. Mississippi Delta
2. I Saw an Angel Die
3. Chickasaw County Child
4. Sunday Best
5. Niki Hoeky

SIDE B

1. Papa, Won’t You Let Me Go to Town with You?
2. Bugs
3. Hurry, Tuesday Child
4. Lazy Willie
5. Ode to Billie Joe

いきなりオープニングの「ミシシッピ・デルタ」に圧倒される。闘争心をむき出しにしたような強い意志が漲るハスキー・ヴォイスのパワフルな歌声に、わたしは一撃でノックアウトされた。まるでパティ・スミスのようだとも思った。

ただしロック風の曲はその1曲だけで、他はカントリーやフォーク、ポップス、ジャズなどが混ざった、アコースティック・サウンド(弾き語りのデモ録音にアレンジを施したもの)の佳曲が並ぶ。後の女性シンガー・ソングライターたちの手本になったような、独特の音楽性と言えるが、これらもまた結構楽しめる。

大ヒットしたタイトル曲は「ビリー・ジョーに捧げる歌」のような意味だが、まるでサスペンス小説のような謎めいた物語が歌われる。

父と娘と息子が農作業を終え、夕飯の食卓に集う。夕食の準備をしていた母親は、彼らに足を拭くよう注意しながら、そう言えばビリー・ジョーが橋から身投げしたらしいと話す。

父はそれを聞いて「あいつはろくでもないやつだったな」と答えるだけでビスケットを求め、明日の畑の作業について話す。
母は「そういえば以前、ビリー・ジョーとうちの娘に似た女の子が橋の上から何かを投げ捨てたのを見たと牧師が話していたわ」と言う。父と息子は特に関心もないようだが、娘は食事が喉を通らない。

そして1年後、息子は結婚して家を出ていった。父は病気で死に、母は悲しみ、取り乱したままだ。そして娘はいつも花を摘み、橋へ行っては川に投げ入れる。そんな歌だ。

曲調は単純なものだが、ビリー・ジョーはなぜ自殺したのか、そしてビリー・ジョーと娘が橋から投げ捨てたものはなんだったのか、その謎めいた歌詞が耳目を集めて大ヒットに繋がったのだろう。

ボビー・ジェントリーはその後の取材やインタビューで、二人が橋から投げ捨てたものはなんだったのかと何度も質問されることになるが、絶対に答えなかったと言う。

↓ アルバムのオープニングを飾る強烈な「ミシシッピ・デルタ」。

Mississippi Delta

↓ 全米1位の大ヒットとなった「オード・トゥ・ビリー・ジョー」。

Ode To Billie Joe

(Goro)