Bob Dylan “Hard Rain”
カメラ目線来た。
『新しい夜明け』以来6年ぶりのカメラ目線ジャケットだ。この時期のディランの自信の表れだろう、とわたしのジャケット占いには出ている。ディランの全作品の中でも最も好きなジャケのひとつだ。
ディランにとって2作目となったライヴ作品であり、1976年春からスタートしたツアー〈第2期ローリング・サンダー・レヴュー〉のステージを収録したアルバムだ。
〈ローリング・サンダー・レヴュー〉ツアーは、あらかじめコンサートの日程を決めることなく、大所帯のバンドメンバーと共にアメリカ各地を旅しながら行く先々で小さな会場を押さえ、現地でポスターやチラシで宣伝して集客するという、ゲリラ的なツアーだった。もともとディランはこんな旅周りの一座のような巡業に憧れていたのだという。
バンドのメンバーには『欲望』のレコーディングに参加したジプシー・ヴァイオリンのスカーレット・リヴェラやロブ・ストーナー、そしてミック・ロンソンやジャック・エリオット、ロジャー・マッギンやジョーン・バエズも参加していたようだ。
タイトルになっている『激しい雨(Hard Rain)』は、野外公演の雨の中で初期の名曲「はげしい雨が降る(A Hard Rain’s A‐Gonna Fall)」が歌われたことから来ているようだ。その模様はテレビ中継もされたようだが、なぜかこのアルバムには収録されていない。謎だ。
選曲には、有名曲は少ないけれどもファンには嬉しい佳曲が並んでいる印象だ。
全米17位とさほど売れなかったのは、そういう印象だからなのかもしれない。
また、このツアー自体、集客ももうひとつだったらしい。
Side A
1.マギーズ・ファーム(『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』より)
2.いつもの朝に(『時代は変わる』より)
3.メンフィス・ブルース・アゲイン(『ブロンド・オン・ブロンド』より)
4.オー・シスター(『欲望』より)
5.レイ・レディ・レイ(『ナッシュヴィル・スカイライン』より)
Side B
1.嵐からの隠れ場所(『血の轍』より)
2.きみは大きな存在(『血の轍』より)
3.アイ・スリュウ・イット・オール・アウェイ(『ナッシュヴィル・スカイライン』より)
4.愚かな風(『血の轍』より)
「マギーズ・ファーム」のような、ほぼ原型をとどめないアレンジはディランのライヴ盤の楽しみのひとつだし、「レイ・レディ・レイ」なんてあの曲の良いところを全部捨てたようなアレンジだ。
それでもハードなロック・サウンドから、「オー・シスター」のジプシー・ヴァイオリンの情念が滴る演奏も聴ける。
演奏は荒っぽいし、音質もたいして良くないけれど、ディランは元気だし、旅回り一座たちの熱い空気感が伝わってくるようなアルバムだ。
↓ このアルバムのハイライトとも言える、10分強に及ぶ「愚かな風(Idiot Wind)」。テレビ東京で放映したときの映像のようだ。