Bob Dylan “World Gone Wrong”
ディラン52歳の作。11カ月前にリリースされた前作『グッド・アズ・アイ・ビーン・トゥ・ユー』に引き続き、オリジナル無しの全曲トラディショナル・フォークのアルバムだ。ディランの弾き語りのみで、参加アーティストはいない。プロデュースもディラン自身だ。
前作に続いてディランらしいアルバムで良いと思うけれども、ただ、2作連続でオリジナル無しとなるとやっぱりちょっと寂しい気分になるのは、わたしのようなわがままなリスナーの正直な気持ちでもある。勝手なものだけど。
ディランの強い希望で、本作は日本盤も歌詞カードが付いていない。歌詞だけを読んであれこれ分析されることを嫌ったディランらしい。声とメロディと言葉とギターが一体となって「歌」になっているわけで、その中のどれかひとつだけを抜き出して分析することにはなんの意義もないということをよく言っていたものだ。わたしもそう思う。
チャートアクションは、それまで最低だった1988年の『ダウン・イン・ザ・グルーヴ』の61位を下回る全米70位と、セールス面では底を叩いた結果だが、なにしろトラディショナル・フォークのアルバムなのだ。最初から商業的な成功など目指していないだろう。
いよいよ俗世から超然と遊離して、歌う仙人のようになってきたようだが、それはそれで面白い。
↓ ジョニー・キャッシュも「デリアズ・ゴーン(Delia’s Gone)」というタイトルで歌った「デリア(Delia)」は、デリアという女性に惚れた男が、冷たくされたことに腹を立てて殺してしまったという殺人を題材にしたバラッドだ。