⭐️⭐️⭐️
Ben Watt
“North Marine Drive” (1983)
一昨日の記事で取り上げたアズテック・カメラは、ちょうど今朝のような爽やかな夏の朝にぴったりのアルバムだったけれども、このベン・ワットの本作は、どちらかといえば冬の朝がよく似合うような音楽だ。どちらも当時の英国ネオ・アコースティックを代表するアルバムだけれども、その印象は真逆のように違う。
陽キャよりも陰キャ好みのわたしは、当然ながらベン・ワットのほうにより好感を持つ。アズテック・カメラのロディ・フレイムからはいかにも若者らしい溌剌とした瑞々しさを感じたけれども、このベン・ワットからは孤独と思索、そして確固たる決意のようなものを感じる。
ベン・ワットは英ロンドン出身のシンガー・ソングライターだ。この当時、弱冠二十歳である。
1981年にデビューし、1stアルバムである本作をチェリー・レッド・レコードから1983年3月にリリースすると、英インディ・チャートの1位を獲得した。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 オン・ボックス・ヒル
2 サム・シングス・ドント・マター
3 ラッキー・ワン
4 エンプティ・ボトルズ
5 ノース・マリン・ドライブ
SIDE B
1 ウェイティング・ライク・マッド
2 サースト・フォー・ノレッジ
3 ロング・タイム・ノー・シー
4 ユーアー・ゴナ・メイク・ミー・ロンサム・ホエン・ユー・ゴー(ボブ・ディランのカバー)
アコースティック・ギター、電子ピアノ、コントラバス、何かしらの打楽器をワット自身が演奏した多重録音で、ゲストミュージシャンはアルト・サックスがいくつかの曲で入っているのみの、音数も少なめの極めてシンプルなものだ。
シンプルなアコースティック作品なのに決して退屈することがないのは、ジャズやボサノヴァの要素も感じられる楽曲のセンスの良さに加え、ひと手間加えたアレンジの美しさ、そして何よりワットの素晴らしい歌声によって作り出される、透明感あふれる世界に陶酔できるからだ。
2000年のインタビューでワットは「当時、ニック・ドレイクやジョニ・ミッチェル、ドルッティ・コラムなどに影響を受けていた。ロンドンにいながら、静けさや空白を表現したかった」と語り、また「“North Marine Drive”は、孤独を美しく語る方法を探していた時期の記録。音数を削ることで、感情を濃くしたかった」(モジョ誌 2003年)とも語っている。
しかしベン・ワットのソロシンガーとしての活動はこの1作で終わってしまう。
その後、彼は当時の恋人だったトレイシー・ソーンとデュオを組み、「エヴリシング・バット・ザ・ガール」として活動していくことになる。
↓ シングル・カットされた名曲「サム・シングス・ドント・マター」。
↓ タイトル曲の「ノース・マリン・ドライヴ」。
(Goro)