ポップ・ミュージックから「メロディ」が重視されなくなって久しい、とわたしは思っている。
古い音楽にはだれもが口づさみたくなるようなわかりやすい歌メロがあった。
しかしヒップホップの隆盛や、ロックやポップスのすでに「やりつくした感」やスタイルの変化もあって、いつのまにか新たな「メロディ」は生まれにくくなってきた。たぶんロック・アーティストで昔ながらの力強い「歌メロ」を生み出すことを第一義にしていたのは、オアシスが最後だったように思う。
しかしスウェーデン出身のアーティスト、アヴィーチーは、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)という最先端の音楽に、まるで昭和の歌謡曲やアニソンぐらいノスタルジックでインパクトの強い歌メロを合体させるという天才的な離れ業で「メロディ」を蘇らせた。
彼の登場はわたしにとって、21世紀のポップ・ミュージック・シーンで最も衝撃的かつ感動的な事件だったと言っても過言ではない。
そういう人がロック・シーンからは出て来ないというのはちょっと残念ではあるけれども。
アヴィーチーはポップシーンを激震させた2枚のアルバムを発表した後、健康上の理由から、2016年にライヴなどのDJ活動を引退する。
そして2018年、友人を訪ねて滞在していた中東のオマーンで、自ら命を絶った。享年28歳だった。
まだまだこれから音楽シーンを牽引するような、彼にしかできない創造的な仕事ができたように想像してしまうので本当に残念でならないが、もう生き続けることさえも出来ない、と感じるほどの苦悩とはどれほどのものなのか、わたしには想像を絶する。
以下はわたしが愛したアヴィーチーの至極の名曲ベストテンです。
Friend of Mine (feat. Vargas & Lagola)
アヴィーチーの生前最後のリリースとなった6曲入りEP『Avīci (01)』のオープニング・トラック。EPは本国スウェーデンで1位のヒットとなった。
歌っているのはスウェーデンのヴァルガス&ラゴラというデュオだ。
この曲はもうかなりダンス要素も少なく、ノスタルジックなポップ・ソングみたいな感じだ。
I Could Be the One
オランダのDJニッキー・ロメロとの共作シングルで、ヴォーカルはスウェーデンの歌手ヌーニー・バオだ。本国3位、全英1位のヒットとなった。
歌メロが特徴的な曲で、最初に聴いたときはなんとなく日本のアニソンを思い出した。
かなりショッキングなPVも忘れられない。
Fades Away
アヴィーチーの死後にリリースされた3rdアルバム、『TIM』収録曲。ヴォーカルはヌーニー・バオ。独特のハスキー・ヴォイスが美しい。
せつなくて感動的な堂々たる歌メロを持つ名曲だ。もうすでにダンス・ミュージックの域を超えてしまっているけれども。
The Nights
2014年に発表されたシングル『The Days / Nights』収録曲で、本国2位、全英6位のヒットとなった。
ヴォーカルはアメリカのシンガー・ソングライター、ニコラス・ファーロングだ。
「いつかこの世を去るときが来る。だからちゃんと思い出に残る人生を生きなきゃいけない。僕が子供の頃、父がそう教えてくれたんだ」と歌う歌だ。
Heaven ft. Chris Martin
コールドプレイのクリス・マーティンをヴォーカルに迎えて2014年にレコーディングされていた楽曲だったが、3rdアルバム『TIM』に収録された。シングルとして、本国スウェーデンで2位、全英20位のヒットとなった。
「きっと僕はもうこの世にいないんだ。生きてる感じがしないんだ。たぶん、天国にいるのかな」という歌詞がせつなく響く。
Broken Arrows
本国スウェーデンで1位、全英9位、全米17位ととなった2rdアルバム『ストーリーズ(Stories)』からのシングル・カットで、本国スウェーデンで4位となった。好意的な意味で、「任天堂のゲーム音楽のような」と評された。
歌っているのはアメリカのカントリー・アーティスト、ザック・ブラウンだ。
PVは、1968年のメキシコ・オリンピックで走り高跳びに出場し、世界初の「背面跳び」で金メダルを獲得した米国人選手ディック・フォスベリーをモチーフにしている。
不調に苦しみ酒浸りの高跳び選手が、娘にヒントを貰って背面跳びを開発するという、あくまで想像上の物語である。
The Days
EP『The Days / Nights』収録曲で、本国1位のヒットとなった。ヴォーカルはスウェーデンのアーティスト、セーラム・アル・ファカー。
「こんな日々をずっと待ち望んでた。世界は僕らを待っている。僕らはこの日々を悔やむことはない。僕らはこの日々を決して忘れない」と歌う、輝かしいけど儚い青春を謳歌する若者賛歌のような歌だ。昭和のアニソンみたいなエンディングのメロディもいい。
Hey Brother
衝撃の1stアルバム『トゥルー(True)』からの大ヒット・シングル。本国1位、全英2位、全米16位。
歌っているのはアメリカのブルーグラス歌手ダン・ティミンスキーだ。
れっきとしたダンス・ミュージックでありながら、しかしシリアスな緊張感も持つ不思議な曲だ。
戦争を題材にしたPVの映像とも相まって、ファンファーレのようなダンス・パートに深い奥行さえ感じる。
Waiting for Love
2nd『Stories』からの大ヒット曲で、本国1位、全英6位となった。
アッと驚くような展開こそないが、最初から最後までシンプルな「歌」の強さに圧倒される。
もはやダンス・ミュージックと言うより、古いも新しいもない、時空を超えるような普遍性を持つ力強いメロディにただただ高揚させられるという、アヴィーチーがついに辿り着いた境地と思える楽曲だ。
Wake Me Up
歴史的名盤『トゥルー』からのシングルで、本国1位、全英1位、全米4位というビッグ・ヒットとなり、アヴィーチーの名を世界に知らしめた名曲だ。
ヴォーカルはアメリカのソウル・シンガー、アロー・ブラック。
カントリー・ソング風に始まり、エレクトロニック・ダンスへとごく自然に展開していくのが衝撃的だった。美しい映像によるPVも、この曲がジャンルの壁も時空も超えた瞬間を表現しているようで感動的だ。
入門用と言ってもベスト・アルバムも無いので、やはり歴史的名盤と言える1st『トゥルー』から聴いてみることをお薦めする。
(by goro)