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Aerosmith
“Rocks” (1976)
デビュー当初は「ローリング・ストーンズの物真似バンド」などと批評家から揶揄され、嘲笑されながらも、エアロスミスはアルバムを出すたびに進化を遂げ、独自のスタイルを構築し、磨き上げていった。
そして前年に「ドリーム・オン」の再発シングルが全米6位と過去最高のヒットとなり、8万人規模のコンサートも成功させ、ワールド・ツアーも行うという、過密スケジュールながら乗りに乗っていた彼らは、4作目となる本作で、エアロスミスの確固とした世界観とその真髄を極め、70年代アメリカン・ハード・ロックの頂点を極めた。
前作『闇夜のヘヴィ・ロック』のようなキャッチーな親しみやすさは、この『ロックス』では影を潜めている。ポップでもキャッチーでもなく、ヘラヘラしたところもチャラチャラしたところもない、凝縮された「ロック」のみが詰め込まれた、重厚かつ生々しいライヴ感のあるアルバムだ。確かに、『ロックス』という看板に偽りなしである。
当時の王道ハード・ロックには、ほとんどリフだけで楽曲ができていて、ヴォーカリストは歌らしきものをテキトーに乗っけてるだけみたいなスタイルも多かった中で、エアロスミスはしっかりと歌メロも書き、ちゃんと歌っているところがわたしは好きだ。
本作は1976年5月にリリースされ、全米3位の大ヒットとなった。日本でもオリコンLPチャート13位と初めてのチャート・インを果たした。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 バック・イン・ザ・サドル
2 ラスト・チャイルド
3 地下室のドブねずみ
4 コンビネイション
SIDE B
1 シック・アズ・ア・ドッグ
2 ノーバディズ・フォールト
3 ゲット・ザ・リード・アウト
4 リック・アンド・ア・プロミス
5 ホーム・トゥナイト
最も有名な曲は、その後のライヴでもオープニング・ナンバーに使われることが多かったA1「バック・イン・ザ・サドル」だろう。ブ厚い重量級のサウンドに負けない絶叫ヴォーカルは、スティーヴン・タイラーの飛沫がスピーカーを通って飛んできそうなほどのド迫力である。グツグツと血がたぎってくるような熱い曲だ。
シングル・カットされたA2「ラスト・チャイルド」は全米21位のヒットとなった。ギターのブラッド・ウィットフォードが書いた曲で、いかにもエアロらしい人気曲だ。
アルバムは最初から最後まで高いレベルでテンションと勢いが一貫し、楽曲にも統一感があり、ダレることなくアッという間に終わってしまう印象だ。
それにしても、ツイン・ギターの凶暴なコンビネーションは最高だし、自堕落なリズム隊も良ければ、カリスマ的な永遠のやさぐれヴォーカリストまでいるなんて、なんて贅沢なバンドかとあらためて感心してしまう。
その後のハード・ロック、ヘヴィ・メタルからグランジまで、本作による影響は計り知れない。その意味で、アメリカのロック・シーンに新たな潮流を生んだ重要作と言えるだろう。思えば80年代のアメリカのバンドなんて、エアロスミスの亜流だらけだったものだ。
しかし、彼らがアメリカン・ハード・ロックの頂点に立ったのは、ほんの一瞬だけだった。
本作が発表された1976年をピークに、スティーヴンとジョーを中心にバンドメンバーがドラッグに溺れ、人間関係も悪化して、バンドは崩壊していく。
メンバーの脱退が相次ぎ、レコードは売れなくなり、ここから10年近くに及ぶ低迷期に突入するのである。
↓ ライヴのオープニングで歌われることも多い代表曲「バック・イン・ザ・サドル」。映像は1977年のライヴ。
↓ 全米21位のヒットとなった、ファンキーなグルーヴがカッコいい「ラスト・チャイルド」。
(Goro)