独創的なビートで世界を席巻! 〜アダム&ジ・アンツ『アダムの王国』(1980)【最強ロック名盤500】#290

Kings of the Wild Frontier [12 inch Analog]

⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#290
Adam and The Ants

“King of The Wild Frontier” (1980)

アダム・アンド・ジ・アンツの名前をよく聞いたのはわたしが中学生の頃だった。

海賊風の衣装にメイクという派手なヴィジュアルもインパクトがあって、当時は何よりもカッコいい言葉に思えた「ニュー・ウェイヴ」のまさに先頭を行くアーティストという認識だった。当時のわたしにとって神に等しかった、あの沢田研二までが影響を受けていたのだ。

FMラジオの洋楽チャート番組で「アント・ミュージック」などを何度か聴き、まだ洋楽の良し悪しなんて全然わからないけれども、「これがニュー・ウェイヴか!」、「これがアダム・アントか!」、「これがカッコいいのか!」などと、無理やりわかったようなつもりになって興奮していたものだ。

その後大人になって、少ない給料から食費よりも多くCDにお金をつぎ込むようになったものの、結局アダム・アンド・ジ・アンツのCDは買わずじまいだった。その頃はすでに過去の人だったのもあるけれども、アダム・アントのマネージャーがあの悪名高きマルコム・マクラレンだったということを知った途端に、なんだか胡散臭く思えてきてしまったからだ。

セックス・ピストルズの好きな人なら、マルコム・マクラレンの名前を聞いただけでちょっと手を出すのをためらう気持ちはわかってくれるだろう。その上あの海賊ファッションやメイクもマルコムの恋人、ヴィヴィアン・ウエストウッドのプロデュースだったと知れば、さらに作られたアイドル感が増す。

しかしやっと数年前に知ったが、アダム・アントは1stアルバムを発表した時点ではパッとせず、マルコムに3人のバンド・メンバーをごっそり引き抜かれてしまった被害者だったのだ。マルコムはその引き抜いたメンバーでバウ・ワウ・ワウというまたしても胡散臭いバンドを結成した。

アダムは新たに、ギターとベースにドラムが二人という変則的なバンドで独創的なビートを編み出し、1980年11月に世に放ったのがこの2nd『アダムの王国』だった。

【オリジナルLP収録曲】

SIDE A

1 ドッグ・イート・ドッグ
2 アント・ミュージック
3 ライオンの餌食
4 ロス・ランチェーロス
5 蟻の侵略
6 ザ・キラー

SIDE B

1 略奪の凱歌
2 5人の英雄
3 マジになるな
4 ジョリー・ロジャー
5 歴史を刻む
6 人間

アルバムは10週連続全英1位と大ヒットし、シングル・カットされたA2「アント・ミュージック」が全英2位、A1「ドッグ・イート・ドッグ」が全英4位のヒットとなった。

翌年もまたシングル・ヒットを連発すると、「ニュー・ロマンティック」というムーヴメントの元祖となった。ニュー・ロマンティックといっても音楽性は様々だが、新鮮なサウンドとその派手な見た目も含めて若年層に支持された、要は80年代のグラム・ロックだとわたしは思っている。

わたしは数年前に、中学の頃から数えると四十年越しぐらいに初めて本作を通して聴いたが、代表曲の「アント・ミュージック」を憶えていて、ずいぶん懐かしく感じたものだ。

当時たぶんラジオで2〜3回聴いただけのはずだけれども、しっかり憶えているものである。脳みそが高野豆腐みたいに吸収力がある年齢だったせいもあるだろうが、やはり当時のインパクトは強烈なものだったのだろう。

そして初めて全曲を聴いたアルバムも、予想を上回るカッコ良さと面白さだった。

あのマイケル・ジャクソンがアダムに直接「あのドラムはどうやって録音してるんだ?」と尋ねたというエピソードもあるほど、ちょっと他では聴いたことがないような打楽器の音の作り方だ。

様々なパターンの、プリミティヴでクールなビートが面白いし、それを実験や解体といった方向ではなく、キャッチーで新鮮なポップソングに昇華しているのがまた凄い。ヒット曲だけでなく、どの曲もそれぞれ個性的で粒揃いの、楽しめるアルバムだ。

時代の徒花と笑う人もいるだろうが、しかし本作が唯一無二の独創的な作品であることは間違いないだろう。

↓ 全英2位のヒットとなった代表曲「アント・ミュージック」。

↓ 全英4位のヒットとなった「ドッグ・イート・ドッグ」。

(Goro)

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