Dinosaur Jr.
“Green Mind” (1991)
長年の謎が、つい最近やっと解けた。
本作はダイナソーJrの4作目のアルバムで、メジャー・デビュー作として1991年2月に発売された。
なのに、メジャー・レーベルの録音とは思えないほど、なんだか薄っぺらいというか、ショボい音だ。なんでこんな音なんだろう、というのが長年の疑問だった。
普通、インディーズからメジャーに移籍すると、格段に音質が良くなるものだ。ソニック・ユース然り、ニルヴァーナ然り。インディーズに比べてメジャーはアルバム制作の予算が格段に多く、一流のスタジオと一流のエンジニアを使うことができるからだ。
しかし本作は、インディーズからリリースされた前作の『BUG』と比べても、迫力に欠け、生々しさに欠ける。持ち味の轟音ギターも、今ひとつガツンと来ない。
この長年の疑問が氷解したのは、つい最近Webで見つけた、2016年のJ・マスシスのインタビュー記事だった。ダイナソーJrの全アルバムを自らお気に入りの順にランク付けし、コメントしている記事なのだが、本作を6位に挙げて以下のようにその真相を明らかにしているのだ。
「『グリーン・マインド』は僕らのアルバムの中で一番風変わりなアルバムだと思う。他のアルバムとはサウンドがかなり違っている」と言い、その理由として「『BUG』のエンジニアをそのまま使ったんだ。彼らは自分たちが慣れ親しんだスタジオではなくて、大きなスタジオに連れて行かれたものだから、うまく使いこなすことができなかったんだ。だから、ちょっと変な音になっちゃった」と語っている。さらには「次作の『ホエア・ユー・ビーン』は大きなスタジオに慣れてるエンジニアを使ったから、サウンドがすごく大きくなって、もっと完成度が高くなったんだ」とも語っている。それはもう2枚を聴き比べてみれば明らかだ。
ダイナソーJrの全アルバムの中でも楽曲の充実という意味ではトップクラスのアルバムなのに音がイマイチなのがなんとももったいない気はするけれども、それでもグッと音量を上げて聴いてもらえれば、それなりに楽しめる作品だ。
【オリジナルCD収録曲】
1 ザ・ワゴン
2 ピューク・アンド・クライ
3 ブロウイング・イット
4 アイ・リヴ・フォー・ザット・ルック
5 フライング・クラウド
6 ハウド・ユー・ピン・ザット・ワン・オン・ミー
7 ウォーター
8 マック
9 サム
10 グリーン・マインド
なんといってもオープニングを飾る「ザ・ワゴン」が素晴らしい。米オルタナチャート22位とたいしてヒットはしていないが、この曲が当時のわれわれオルタナリスナーに衝撃と熱狂を与え、夢中にさせたことは間違いない。
疾走するスポーツカーのようなドライヴ感に、ロー・テンションのヴォーカルとハイ・テンションの轟音ギターを組み合わせると、なぜか滅法爽快なロックンロールに仕上がるのが衝撃的だった。ドライヴには最高だけど、高揚感がありすぎてついついスピードを出しすぎてしまう。
オリジナルメンバーのベーシスト、ルー・バーロウはすでに脱退し、体調を崩していたドラムのマーフが「ワゴン」を含む3曲を叩いている以外は、J・マスシスがすべてひとりで演奏している。実質的には彼のソロ・アルバムみたいなものだが、パワー・ダウンなどは微塵も感じられない。
前3作に比べると、ポップな曲やメロディアスな曲が増え、音楽性が幅広くなり、楽曲が充実している。「サム」など、メランコリックな曲もまた良い。
92年の来日時にわたしは名古屋の小さなライヴハウスで彼らを観ることができた。
ちょっとデブになっていたJはステージの左隅にずっと立ったまま演奏し、あまり動くこともなかった。顔はずっと貞子みたいに長い髪で覆われていて、最後までよく見えなかった。
それでも演奏は異様なテンションで、ステージ前のわれわれはそのスピード感と轟音に圧倒されながら洗濯機の中の衣類みたいにぐるぐると回っていた。コケそうになるとだれかが助けてくれた。あんなにバカみたいなテンションで楽しんだライヴも滅多にない。生涯最高のライヴ体験のひとつだ。
↓ ダイナソーJrの代表曲のひとつ「ザ・ワゴン」。間奏のギター・ソロも素晴らしい。
↓ 陽気な疾走感がカッコいい「アイ・リヴ・フォー・ザット・ルック」。
(Goro)


