ボブ・ディラン/風に吹かれて (1963)【’60s Rock Masterpiece】

Blowin' In The Wind [Analog]

【60年代ロックの名曲】
Bob Dylan
Blowin’ In The Wind (1963)

「風に吹かれて」は、1963年5月にリリースされたボブ・ディランの2ndアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』の冒頭を飾る曲だ。

リリースの翌月には、当時のフォーク・ブームの中心地ニューヨークで、反戦歌などを歌って人気を得ていたフォーク・グループ、ピーター・ポール&マリーがカバーしてシングルとしてリリースすると、全米2位の大ヒットとなった。

ディランのオリジナル・バージョンも8月にシングル・カットされた。ヒットチャートには上らなかったものの、当時の世界的なフォーク・ブームのシンボリックな名曲として、そして戦後世代の若者たちの、政治や社会に対する意識の高まりと共に、新しい価値観を象徴する名曲として、世界中で愛唱され、そして「利用」もされた。

音楽的には非常にシンプルな曲だが、しかしこの曲には今あらためて聴いても、やはり特別ななにかがある。世界中で愛され、歌われるのは、やはりそれなりの特別なものを持っているのだ。

どれだけ歩けば立派な男になれるのか
どれだけ海を越えれば白い鳩は陸にたどり着けるのか
どれだけ砲弾を撃ち合えば終わるのか
友よ、その答えは風に吹かれている
答えは風に吹かれている

(written by Bob Dylan)

詩的で抽象的なイメージと、「砲弾」のようなドキッとする現実的な言葉が混ざり、哲学的な問いかけと現実的な社会への問いかけが混在したものになっている。
その答えが風に吹かれて舞っているという詩句は美しいが、ヒラヒラと風の中に舞っている大事なそれを人々は掴むことができずにあがいているというイメージはまた、皮肉っぽくもあり、虚無的な印象でもある。

まだ少年の面影が残るたった21歳の若者が書いたものとは思えないほど、いろいろな想いと深い思索を喚起させる歌だ。
また、無垢な青年らしい、不条理な世界に対して「理解に苦しむ」問いかけは、多くの人が共感しやすい問いかけでもある。

この深い歌詞の世界は、それまで女の子とダンスやドライヴすることを能天気に歌っていたロックンロール・バンドにも影響を与えた。〈ロックンロール〉がただの熱狂的なダンス・ミュージックから、不条理な社会を生きる若者の心情を代弁したり、新しい価値観を歌う〈ロック〉へと進化したのは、この歌をはじめとするボブ・ディランの影響が大きかったのだ。

ただしその後、この曲が反戦や平和運動のテーマ曲みたいに地球上のあらゆる場所で勝手に使われまくったことに対して、ディランはどんな気分だったのだろう、と思わざるを得ない。

美しく力強い歌だし、だれもが好きになるのはよくわかるけど、音楽的な意義とは離れたところで「歌」が主義思想のシンボルのように利用され出すと、共感する気分にはわたしはなれない。ボブ・ディランやジョン・レノンの歌を錦の御旗のように掲げて、手っ取り早く正当化しているようにも思えたものだ。

個人的な表現を、正体の知れぬ主義思想のために利用されることなど、ディランも決して誇らしい気分ではなかっただろう。

Blowing In The Wind (Live On TV, March 1963)

↓ 全米2位の大ヒットとなったピーター・ポール&マリーのカバー・バージョン。

Blowin' in the Wind (2004 Remaster)

(Goro)