『メイド・イン・ザ・シェイド』(1975)
The Rolling Stones
1975年6月6日に発売された『メイド・イン・ザ・シェイド』は〈ローリング・ストーンズ・レコード〉設立以降、初めてリリースされたベスト・アルバムだ。
タイトルの意味はアメリカの俗語で「万事快調」「安泰な人生」みたいな意味なんだそうな。この時期のストーンズといえば、確かにこれまでのところはその通りだったが、今まさにそれが崩れようとしているところだった。
前年の12月にミック・テイラーが脱退を表明し、ストーンズは新しいギタリストを探す必要に迫られ、そのためこの年はニュー・アルバムが出せないかもしれないと判断してのリリースらしい。この年だけ新譜のリリースなしでは、さすがにレーベルの運営も困ったことになるのだろう。
内容は71年に設立したセルフ・レーベル〈ローリング・ストーンズ・レコード〉からリリースしたシングルのA面・B面の曲で構成されている。
ちょうどミック・テイラーが在籍した時代のシングルということで、「ミック・テイラーの思い出ベスト」とも言えるだろう。
1曲だけ、シングルに収録されていない「リップ・ディス・ジョイント」が加えられている、なぜこの曲が追加されたのかは謎だ。
SIDE A
- ブラウン・シュガー – Brown Sugar
- ダイスをころがせ – Tumbling Dice
- ハッピー – Happy
- ダンス・リトル・シスター – Dance Little Sister
- ワイルド・ホース – Wild Horses
SIDE B
- 悲しみのアンジー – Angie
- ビッチ – Bitch
- イッツ・オンリー・ロックン・ロール – It’s Only Rock ‘n Roll (But I Like It)
- ドゥー・ドゥー・ドゥー(ハートブレイカー) – Doo Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker)
- リップ・ディス・ジョイント – Rip This Joint
全10曲、トータル39分だ。
わたしはこういうLP時代の、ちょっと物足りないぐらいの分量のベスト盤が好きだった。「ちゃんと聴いたことはないけどちょっと気になるアーティストの入門用」としてサクッと聴けるし、それで気に入ったら、オリジナル・アルバムに手を伸ばしてみよう、という気持ちもあるからだ。
しかし昨今の、CD2枚組30曲120分も入ってるようなもはや「ベスト盤」と言うより「ベター盤」と言ったほうがいいような分量のものだと、ちょっと聴いてみようかと手を伸ばすには重すぎるし、正直そこまでたっぷり聴きたいわけじゃないので、とためらってしまうのだ。
たぶんこういうものは、もう初めから「このアーティストはシングル・ヒットも多いし好きな曲も多いけど、オリジナル・アルバムまで聴いてみたいという気には一生ならないだろうから、この2枚組ベストだけ買って済まそう」という場合が多いのだろうと思う。それはそれでアリだが、21世紀以降のJ-POPの「ベスト盤しか売れない」状況はそうやって作り出されたとも言える。
話がそれた。
本作は70年代前半の4枚のアルバムから選んだ10曲という期間限定みたいなベスト盤だが、それでもこれをストーンズの入門用に聴くのも悪くないと思う。ある意味いちばんとっつきやすい頃のストーンズの代表曲ばかりだし、これを聴いて気に入らなければ、もうストーンズとは縁がないと思って諦めた方がいいと思う。
逆にコアなファンにとっては、アルバム未収録曲なども無いし、特に購入意欲をそそるような引きが無いためか、当時の売れ行きもさほどではなく、全米6位、全英14位にとどまっている。
ジャケットは、これが山下達郎かなにかのシティ・ポップスのレコードだったらオシャレと言えるのだろうが、ストーンズのレコードとなると俄然、妙に猥褻感が滲み出してくるのは不思議なものだ。
(Goro)