「コックサッカー・ブルース」 (1971)
The Rolling Stones
今回は番外編として、発売されなかった楽曲を取り上げることにする。発売されなかったのに、コアなストーンズ・ファンなら誰もが知り、人気の高い有名曲でもあるからだ。
ストーンズは1970年7月に所属していたレーベル、DECCA(英)とLONDON(米)の契約が切れ、〈ローリング・ストーンズ・レコード〉という新レーベルを設立した。
これにはストーンズの著作権と財政を握っていた悪徳マネージャー、アラン・クレインと決別する目的もあったのだが、それもすんなりとはいかず、その後2年間に及ぶ裁判の結果、60年代のDECCA/LONDONのストーンズの作品の出版権はアラン・クレインと彼の会社アブコ・レコードの手に渡ってしまった。
そのうえDECCAは、契約上あともう1枚シングルを出す義務があると言ってきたため、ストーンズはこの到底発売できるはずのない淫猥な内容の曲「コックサッカー・ブルース」を仕返しのように提出したのだった。
曲の内容は、わたしのこのお上品なブログではとてもとても書けないようなお下品なものであるので気になる人は各自ネットででも調べてほしいが、タイトルの意味だけ言っておくと、”Cock”は男性の体の中心に付属している伸縮自在の便利アイテムのことで、”sucker”は、ペロペロのことである。
結局、DECCAは発売をあきらめ、替わりに「ストリート・ファイティング・マン/サプライズ・サプライズ」を収録したシングルをリリースしている。
そんなわけで幻のシングルとなり、その後もストーンズのレコードに収められることはなかったが、しかし海賊盤として流出して広く出回り、コアなストーンズ・ファンなら誰もが知る曲となった。わたしも友人が入手した海賊版レコードを借りて聴いた。上に掲載したジャケットは当時有名だった海賊盤のレコードである。現在ならYouTubeでいつでも聴くことができる。もちろん公式ではないが。
ありえないぐらい暗い、しかもおぞましい内容の曲であり、だからこそインパクトの強烈な、一度聴いたら忘れられない名曲だ。ただし、夢に出てきたらうなされるかもしれないし、気の弱い人ならトラウマになりかねないので、聴くにはそれなりの覚悟はしたほうがいい。
ストーンズ・ファンには好きな曲にこれを挙げる人もいるし、わたしももちろん好きだ。恥を忍んで言うと、ものすごく好きだ。
またこの1年後に、ロバート・フランク監督による1972年のストーンズのアメリカ・ツアーを記録したドキュメンタリー映画にも同じタイトル、『コックサッカー・ブルース』が使われていた。
その内容はタイトルも示唆しているように、ライブの模様よりもバックステージや移動中のストーンズのメンバーの麻薬の使用やグルーピーとの乱痴気騒ぎに重点が置かれた内容らしく、裁判所命令により上映禁止となった。これもまた幻の映画となったが、当然のように海賊版は出回り、これもコアなストーンズ・ファンは大抵は見ているようだ。わたしは見ていないが。
内容は関係ないが、村上龍にも『コックサッカー・ブルース』という長編小説がある。彼のストーンズ好きはよく知られているし、当然この曲から拝借したのだろう。この作品も淫猥で凄絶で勢いのある、新しい世界観が描かれた傑作である。
(Goro)