『メタモーフォシス』 (1975)
The Rolling Stones
ストーンズのDECCA在籍時代(1963〜70)の未発表音源を集めたアルバムだ。DECCA時代の著作権を握っていた元マネージャー(ミックに嫌われてクビになった)のアラン・クレインが、自身が設立したアブコ・レコードから1975年にリリースしたものだ。
SIDE A
- アウト・オブ・タイム – Out of Time
- ドント・ライ・トゥ・ミー – Don’t Lie to Me(タンバ・レッドのカバー)
- スティック・イン・ユア・マインド – Some Things Just Stick in Your Mind
- 来る日も来る日も – Each and Everyday of the Year
- ハート・オブ・ストーン – Heart of Stone
- かたくなの心 – I’d Much Rather Be with the Boys
- めざめぬ街 – (Walkin’ Thru The) Sleepy City
- ウィーアー・ウェイスティン・タイム – We’re Wastin’ Time
- トライ・ア・リトル・ハーダー – Try a Little Harde
SIDE B
- アイ・ドント・ノウ・ホワイ – I Don’t Know Why(スティーヴィー・ワンダーのカバー)
- イフ・ユー・レット・ミー – If You Let Me
- ジャイヴィング・シスター・ファニー – Jiving Sister Fanny
- ダウンタウン・スージー – Downtown Suzie (ビル・ワイマン作)
- ファミリー – Family
- メモ・フロム・ターナー – Memo from Turner
- アイム・ゴーイン・ダウン – I’m Going Down
以上、全16曲となるが、A-5とA-8はなぜか米国盤ではカットされている。聴くなら英国盤だ。特記なきものはすべてジャガー/リチャーズ作。
他のアーティストへの提供曲のデモ音源や、アルバム製作時にお蔵入りとなった楽曲などを中心に構成されている。
お蔵入りになるのもまあしょうがねえかと思うものもあれば、お蔵入りではもったいないぐらい良い出来のものもあり、ファンには嬉しいアルバムだった。
その中でとくにわたしが気に入ってるものにだけ触れておこう。
冒頭の「アウト・オブ・タイム」は4thアルバム『アフターマス』に収録された曲だが、クリス・ファーロウがカバーすることになり、彼の濃厚なR&Bヴォーカルを気に入っていたミック・ジャガーのプロデュースのもと、ストリングスや女声コーラスを盛大に投入して大アレンジを施したバージョンで発売され、全英1位の大ヒットとなった。今回収録されたのは、そのときのバックトラックにミック・ジャガーが仮歌を入れたデモバージョンだ。
シンプルなロックスタイルのオリジナル・バージョンと、ストーンズらしさがすべて失われた大厚化粧バージョンのどちらが好きかは、好みが分かれそうだ。 わたしはまあオリジナルの方が妥当かと思いつつも、しばしば大厚化粧のほうに浮気してしまうのはやはり変態のサガだろうか。
A-5の「ハート・オブ・ストーン」もアレンジがまったく違うバージョンだが、わたしの持っている古いレコードのライナーには「ミック・テイラーを迎えて再録したもの」となっていて長年そう信じていた。
しかし現在のWikiを見てみると「初期バージョンで、このバージョンにはジャガー以外のストーンズのメンバーは参加していない」とある。また別の書籍では「カバー用のデモ・トラックでジミー・ペイジが参加している」とあり、結局どれが本当なのかわからない。でも、ミックの声が若いし、ギターソロがなんとなくテイラーというよりペイジっぽいので、今後はペイジだと思って聴くことにしようと思う。
B-1「アイ・ドント・ノウ・ホワイ」のオリジナルはスティーヴィー・ワンダーだ。『レット・イット・ブリード』制作中の69年7月にミック・テイラーも参加して録音されたものの、お蔵入りとなっていた。『レット・イット・ブリード』に収録されていても違和感がないような、ディープソウル風のコクとこの頃のストーンズらしい狂暴性も滲み出た好カバーだ。
尚、この曲のミックス中にスタジオに電話が入り、メンバーにブライアン・ジョーンズの訃報が伝えられたという。
B-3「ジャイヴィング・シスター・ファニー」も『レット・イット・ブリード』から漏れたアウトトラックで、ミック・テイラーも参加している。本アルバムでは最高の聴き物だ。『レット・イット・ブリード』のB-2ぐらいに入っていても全然違和感がないと思う。テイラーらしい、当時弱冠20才ながら物怖じしない大胆なギタープレイが最高だ。
ラストを飾る「アイム・ゴーイン・ダウン」は1970年7月の録音で、『スティッキー・フィンガーズ』から漏れてお蔵入りとなった曲だ。歌詞と歌メロが未完成みたいな感じにも聴こえるが、バックの演奏はこの時期の勢いのあるストーンズらしいハイテンションだ。もっと煮詰めて完成度を高めたらきっとカッコいい曲になっていたかもなあと想像させる。
とまあ、そんな一聴の価値あるトラックも含まれ、他にも興味深い未発表曲がふんだんに収録された、ファンにはお薦めしたいアルバムだ。ファンにはね。
(Goro)