The Rolling Stones
Sixty Years
ザ・ローリング・ストーンズは、今年でレコード・デビュー60周年になる。彼らはわたしが生まれる前の年に「サティスファクション」で世界的なブレイクを果たした。それからずっと、わたしがよちよち歩きを始め、パパママと喋り出し、学校へ行き、生意気なことを喋り出し、社会に出て働き、昭和が平成に変わり、結婚し、10回転職し、平成が令和に変わり、床屋で毎回白髪染めをするようになった今もまだ彼らはザ・ローリング・ストーンズとして活動を続けている。その間一度も解散することなく、名曲や名盤を量産し、世界中のファンを熱狂させ、彼らのようになりたいと楽器を手に取った幾世代もの若者たちによってロック・シーンは大賑わいを続けてきたのだ。
ロックバンドが活動を停止したり、解散したりするきっかけは様々だ。
ヒット曲が出なかったり、マンネリ化したり、迷走したり、ヒドい駄作を作ったり、ドラッグに溺れたり、警察に捕まったり、スキャンダルで叩かれたり、マネージャーが悪いやつだったり、メンバー間が険悪になったり、メンバーが脱退したり、メンバーが死んだり。
まさにストーンズはその全部を経験しているのだ。全部を経験し、何度も解散の危機を迎えながらもそれを乗り越えてきたのは、まさに奇跡としか言いようがない。残念ながら現在、オリジナル・メンバーはミック・ジャガーとキース・リチャーズしか残っていないとはいえ。まあでも、あの怪物二人が残っていれば、ザ・ローリング・ストーンズと名乗ることに誰も文句は言わないだろう。
そんなローリング・ストーンズのデビューから現在までの60年の変遷を辿りながら、今一度聴き直してみよう。
別に解説をするつもりもなければ、批評なんてもちろんするつもりもない。単なる一ファンの戯言だ。でも、これからもロックという音楽が聴き継がれるとするなら、その中心にいて、桁違いの数の名曲を残し、多大な影響を及ぼしてきた、ロック史に特大の文字で記されるべきバンド、ザ・ローリング・ストーンズの音楽を、また新たな世代の若者たちにも聴き継がれていってほしいなという想いだけはしっかり込めながら、おススメしたりしなかったりしながら、 書いていきたいと思う。メンバーの名前や担当楽器などの基本情報から知りたい人は今すぐウィキペディアへ急げ。
そんなわけでまずはデビュー・シングルだ。
おいおい、シングルもアルバムも全部聴いていくのかよ、と呆れられそうだが、その通りだ。聴き倒すのだから。
ストーンズのレコード・デビューは1963年6月7日に英国のレーベル”DECCA”から発売されたシングル盤だった。
The Rolling Stones
SIDE A カム・オン(チャック・ベリーのカバー)
SIDE B アイ・ウォント・トゥ・ビー・ラヴド(マディ・ウォーターズのカバー)
A面はロックンロールの創造主チャック・ベリーのカバーだ。この曲を選んだのは、当時のストーンズのマネージャー兼プロデューサーのアンドリュー・オールダムだ。
しかし、チャック・ベリーとは言えかなりポップで、あまり内容もないこの曲をデビュー・シングルにすることにバンドは猛反対した。
当時のストーンズは、英国ではまだあまり聴かれていなかった米国のブルースを演奏するバンドして活動し、ロックンロール・バンドではなくブルース/R&Bバンドを自認していたため、レコード・デビューもゴリッゴリの渋いブルースやR&Bナンバーにしたいというのがバンドの意向だったのだ。しかしマネージャーは「シングルは売れ筋の曲じゃないとダメだ」と主張し、この「カム・オン」をゴリ押ししたのだった。
ちょうどビートルズが「フロム・ミー・トゥ・ユー」で全英チャート1位を7週間も続けている真っ只中での録音だった。マネージャーがストーンズをビートルズのように売ろうとしていたのは間違いないだろう。バンドは結局マネージャーに従って渋々録音したものの、ライヴでの演奏は拒否したという。
キースは自伝にこのデビュー・シングルのことをこう書いている。
自分たちがやっていたこととなんの関係もない曲だったが(中略)あの曲は単なる船出のための方便と割り切っていたんだな。スタジオに入って売れるものを作るんだ。チャック・ベリー版とはかなり違った。もっとはっきり言えば、ビートルズ化されていた。イギリスで録音するとああならざるを得なかったんだ。
(キース・リチャーズ自伝『ライフ』棚橋志行訳)
でもわたしはこの、チャック・ベリーの原曲よりもスピード感とキレがあるストーンズのカバーが好きだ。まあこれだけでなく、当時のストーンズはチャック・ベリーのカバーはどれも抜群に良いけれども。バンドの資質に合っているのだろう。
そしてB面はシカゴ・ブルースの王様、マディ・ウォーターズのカバーだ。原曲のブルース・フィーリングはもちろん大事にしながらも、若々しく瑞々しい演奏によってオリジナリティを獲得している。これもわたしの好きなカバーだ。ちなみに彼らのバンド名もマディ・ウォーターズの名曲”Rollin’ Stone”から取られたものだ。
どちらも米国の黒人音楽を、スピード感のあるタイトな演奏で英国流にポップに仕上げた、後に”ブリティッシュ・ビート”と呼ばれる新しい音楽に生まれ変わらせていた。
全英シングルチャートでは21位とボチボチの船出だったが、ストーンズの音楽性の原点と言えること二人の神々を裏表にした、その意味では象徴的なデビュー・シングルだった。
ストーンズが60年代にリリースしたシングルはこの『シングル・コレクション:ザ・ロンドン・イヤーズ』で年代順にA面・B面ともすべて聴くことができる。ストーンズ・ファン必携のアルバムだ。