〈ソフト・ロック〉という言葉は実は日本で生まれた造語だ。
もちろん、悪口でもなければ、イジってるわけでもない。ロックの新境地であり、熱心な実験精神によって生まれた芸術性の高いロックとしての賞賛が込められている。
ソフト・ロックは、ちょうどハード・ロックが生まれた1960年代の後半に時期を同じくして、アメリカ西海岸で生まれた。1990年代に渋谷系ミュージシャンや山下達郎などが推したことで日本で広く知られるようになったようだ。
その源流は多重録音の鬼、ウォール・オブ・サウンド職人のフィル・スペクターであり、その影響を受けて『ペット・サウンズ』を創り上げたビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンである。
その『ペット・サウンズ』というロック史上の”事件”に影響を受けて続々と生まれたのが、キラキラした輝きと柔らかい質感のサウンド、そして美しいハーモニーによって、“サンシャイン・ポップ”とも呼ばれた、L.A.産のソフト・ロックだった。
だったらロックじゃなくてポップスじゃないのか、と言われそうだが、ポップスのようなわかりやすさとエンターテインメント性を追求してはいないようなのだ。
職人プロデューサーたちが作り上げた実験的なサウンドによる独創的な音楽の傾向が強く、あくまでマニアックなものであり、だからまあ、あんまり売れなかったアーティストが多い。
ひと口にソフト・ロックと言っても実はもっと広い解釈もあるのだけれど、ここでは1966~70年頃に主に米西海岸から生まれたものを中心に選んでみた。
以下は当時の、ソフト・ロックの代表格の10組10曲というわけだが、とはいえ、もちろん彼らは自分たちがこの極東の国で”ソフト・ロック”などと呼ばれているなんて夢にも思っていないだろうけれども。
グッド・ヴァイブレーション(1966)
The Beach Boys – Good Vibrations
まずは元祖ソフト・ロックと言うべきビーチ・ボーイズの代表曲。
ブライアン・ウィルソンの天才と職人技が遺憾なく発揮された、めくるめく”ポケット・シンフォニー”だ。革新的で、ユーモラスで、常軌を逸した音楽ながら、全米・全英で1位を獲得した。
人造エネルギー(1968)
The Byrds – Artificial Energy
バーズというバンドは本当に凄い。1stでフォーク・ロックを創造し、3rdでサイケデリック・ロックを発明し、そしてこの曲から始まる5th『名うてのバード兄弟』でソフト・ロックに手を染める。さらには次作でカントリー・ロックまで創り上げたのだから、60年代のアメリカン・ロックはほぼバーズによってその種が撒かれたと言っても過言ではないほどだ。
ドント・テイク・ユア・タイム(1968)
Roger Nichols & The Small Circle Of Friends – Don’t Take Your Time
発売当時はまったく売れなかったものの、後に“ソフト・ロックの聖典”とまで評された、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズの唯一のアルバムのオープニング・トラック。
どこか現実離れしたような乾いたサウンドは、今聴いても斬新でクールだ。彼らの熱烈なファンである小西康陽がピッチカート・ファイヴのサウンド作りの手本としたことでも知られている。
ウィンディ(1967)
Association – Windy
3rdアルバム『ウィンディ』の先行シングルで、全米1位の大ヒットとなった。
アソシエイションは他にも「チェリッシュ(全米1位)」「かなわぬ恋(全米2位)」などの大ヒット曲があり、ソフト・ロックと言えば真っ先に名前が挙がるバンドのひとつだ。
トゥ・クラウディア・オン・サースデイ(1968)
The Millenium – To Claudia on Thursday
一度見たら忘れられないアルバム・アートワーク、美しいコーラスとドリーミーなメロディー、キラキラしたフォーキーなサウンドもどこか人工的な質感がまたクールな魅力だ。
当時最新の16チャンネルの録音システムを駆使した最先端サウンドだったが、これまた当時はまったく売れなかったそうだ。
ソング・トゥ・ザ・マジック・フロッグ(1968)
Sagittarius – Song To The Magic Frog
ミレニアムのカート・ベッチャーとプロデューサーのゲイリー・アッシャーが中心となって制作したアルバムで、演奏しているのはミレニウムとスタジオ・ミュージシャンたち。サジタリアスというバンドがあったわけではないらしい。
ミレニウムを超えるような、さらなるキラキラサウンドと魔法のコーラスに磨きがかかった世にも美しい夢幻の世界だ。
マッド(1968)
Harpers Bizarre – Mad
彼らの最高傑作と名高いコンセプト・アルバム『シークレット・ライフ』収録曲。
ワーナーを代表する職人プロデューサーの手腕による、美しいストリングスやブラスとコーラスが絡み合う、どこかレトロな雰囲気もある桃源郷のような世界。ワーナー・ブラザーズのビルの所在地にちなんで”バーバンク・サウンド”などと呼ばれた。
デイ・ドリーム・ビリーヴァー(1967)
The Monkees – Daydream Believer
えっ、モンキーズもソフト・ロックなの??と言われそうだが、彼らもL.A.のバンドで、あらためて聴いてみれば、上に挙げたバンドたちとほとんど同じような、丁寧に作り込まれた美しいソフト・ロック・サウンドであることに気づくはずだ。
この曲はキングストン・トリオのジョン・スチュワートの作で、4週連続全米1位の大ヒットとなった。日本でもよく知られた名曲だ。
レッド・ラバー・ボール(1966)
The Cyrkle – Red Rubber Ball
彼らはペンシルヴァニア出身のバンドで、東海岸を代表するソフト・ロック・バンドとして挙げておきたい。
ビートルズのマネージャーだったブライアン・エプスタインに見いだされ、ジョン・レノンがバンド名の名付け親になったことでも知られる。本人たちはきっとアメリカのビートルズぐらいのつもりだったに違いない。
この曲はポール・サイモン作で、全米2位の大ヒットとなった彼らの代表曲。
バブルス(1970)
Free Design – Bubbles
彼らはニューヨーク出身で、異常天才作曲家クリス・デドリックとその弟と妹による、ファミリー・グループだ。
これは彼らの4thアルバム『スターズ・タイム・バブルス・ラヴ』のオープニング・トラック。複雑な変拍子と神技みたいなコーラスが凄い。それでも前衛ぽくなく聴きやすいという不思議な音楽だ。完全に忘れられた存在だったが、小山田圭吾が発見して彼のレーベルから90年代に再発したことが再評価のきっかけとなった。
選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。
♪YouTubeプレイリスト⇒ はじめてのソフト・ロック【必聴10組10曲】SOFT ROCK Songs to Listen to First
ぜひお楽しみください。
(Goro)