⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
Nick Cave & The Bad Seeds
“The Good Son” (1990)
ニック・ケイヴは、オーストラリア出身のシンガーソングライターだ。
80年代前半には暗黒前衛系のバンド〈ザ・バースディ・パーティ〉で、原始的なリズムとノイズと咆哮と打撃音と狂乱の、それはもう恐い恐い音楽をやっていた。
ソロになっても初めはやはり暗黒前衛だったが、その後ヘロイン中毒になり、ブラジルで長期間療養し、たぶん人生を見つめ直すかなにかして、6枚目のアルバムとなる本作『ザ・グッド・サン』を1990年4月に発表し、人間界への奇跡の生還を果たした。
暗黒前衛を捨て、突然「歌」に目覚めたかのような、古典的でメロディアスな作風に一変した。きっとこれが、地獄から生還した男にとっての真摯な音楽だったのだろう。
本作は、この時代のわたしにとっての〈夜の音楽〉だった。当時は、眠りに就く前にベッドで聴いたものだった。真っ暗で冷たい淵から、大きな熱い手によって救済されるような気分で眠りに落ちたものだ。
【オリジナルCD収録曲】
1 フォイ・ナ・クルズ
2 ザ・グッド・サン
3 ソロウズ・チャイルド
4 ザ・ウィーピング・ソング
5 ザ・シップ・ソング
6 ザ・ハマー・ソング
7 ラメント
8 ザ・ウィットネス・ソング
9 ルーシー
10 ザ・トレイン・ソング
全曲、名曲ではないか。
今聴き直しても、本作の楽曲の充実ぶりにあらためて驚かされる。素晴らしい、そして美しく、深いアルバムだ。
まあ、初めてニック・ケイヴを聴く人は「うわあ暗いなあ」と思うかもしれない。
しかしニック・ケイヴは、カッコつけず、奇を衒ったりせず、無理に新しさを追ったりもせず、音楽に対して真摯に向き合い、純粋で無垢な「歌」の数々を、生まれてくるままに任せたかのようだ。真摯に魂を込めて歌われるその歌は、それが明るかろうが暗かろうが関係なく胸を打つものだ。
極めてシンプルな歌でありながら、やはり彼の独特のあの低い声で歌われると、どうしたって唯一無二の「歌」になってしまう。
本当に美しいものには光だけでなく影の部分もあるものだし、磨き上げられた部分だけではなくゴツゴツとしたプリミティヴな手触りの部分もあるものだ。このアルバムにはそのどちらもが備わっている。「超」をつけたい名盤だ。
↓ アルバムのオープニングを飾る「フォイ・ナ・クルーズ」。
↓ シングル・カットされた「ザ・シップ・ソング」。直訳すると「舟唄」だな。
(Goro)

