噛めば噛むほどに味が染み出す 〜ルー・リード『NEW YORK』(1989)【最強ロック名盤500】#9

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【最強ロック名盤500】#9
Lou Reed
“New York” (1989)

ルー・リードのホーム・グラウンド、”NEW YORK”の都市生活、格差、政治、エイズ、環境破壊など社会問題を題材に歌ったアルバムだ。

リード自身が「1時間かけて通して聴く、本のような作品を作った」と語るように、まるで連作短編集のような作品となっている。アルバムのライナー・ノーツにも「この作品は一度で通して聴くことを推奨する」と明記されている。

本作は1989年1月に、ルー・リードの15作目のスタジオ・アルバムとしてリリースされた。

かつてのヴェルヴェット・アンダーグラウンドの盟友、モーリン・タッカーが2曲でパーカッションを叩いている以外は、ギター2本と、ベース、ドラムのみという、余計な装飾を削ぎ落としたようなサウンドだ。

【オリジナルCD収録曲】

 1 ロミオ・ハド・ジュリエット
 2 ハロウィーン・パレード
 3 ダーティ・ブルヴァード
 4 エンドレス・サイクル
 5 ゼア・イズ・ノー・タイム
 6 ラスト・グレイト・アメリカン・ホエール
 7 グレイト・アドヴェンチャーのはじまり
 8 バスいっぱいの運命
 9 シック・オブ・ユー
10 ホールド・オン
11 グッド・イーヴニング・ミスター・ワルトハイム
12 二月にクリスマス
13 ストローマン
14 ダイム・ストア・ミステリー

ルー・リードの、語りと歌の中間のようなヴォーカル、ソリッドなギター、極めてシンプルなアレンジ、これだけでアルバムは最後まで続く。

正直、最初聴いたときは、一本調子で地味なアルバムの印象だった。けれども、何度か聴いているうちにそこここにメロディーが溢れていることに気づくし、少人数で撮ったモノクロ映画のような滋味あふれるカッコ良さに、「こりゃ一生聴いていられるなあ」と思うようになっていった。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに近いと言えばそうだけど、でも陰鬱さや毒々しさは感じないし、むしろポジティヴなエネルギーに満ちている。

あたかも初期のボブ・ディランの弾き語りアルバムのように、聴けば聴くほど、噛めば噛むほど、味が染みだしてくる、スルメのようなアルバムだ。

ルー・リードの代表作として広く知られる2nd『トランスフォーマー』は、楽曲の良さもさることながら、デヴィッド・ボウイのプロデュースによって、聴きやすく、変化に富んだ、完成度の高い作品に仕上がっていた。しかし、このシンプル極まりない、まったく商業的な匂いのしない、緊張感のあるアルバムこそ、ルー・リードの本領がいかんなく発揮された傑作と言えるだろう。

↓ ニュー・ヨークの貧困と格差を痛烈に歌った「ダーティ・ブルヴァード」。シングル・カットされ、米オルタナティヴ・チャートで1位に輝いた。

↓ アルバムのクライマックスと言うべき「ストローマン」。

(Goro)

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