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Buzzcocks
“Another Music in a Different Kitchen” (1978)
「3大ロンドン・パンク」というと、セックス・ピストルズ、クラッシュ、ダムドなんて言われたものだったが、「3大英国パンク」ということならわたしは、ピストルズ、クラッシュ、そしてこのバズコックスを挙げるだろう。
バズコックスはロンドンではなく、マンチェスター出身のバンドだ。1976年、ライヴ・シーンで話題となっていたデビュー前のセックス・ピストルズをマンチェスターに招聘してライヴを企画したのが彼らであり、さらに自らもバンドを結成してステージに立ち、自主制作盤でインディ・レーベルからデビューするという、パンク・ロックのD.I.Y.精神を最も体現したバンドだった。マンチェスターにロックシーンを打ち立てた功績は大きく、後のザ・スミスやオアシスなどにも大きな影響を与えている。
本作はそんなバズコックスが1978年3月にリリースした1stアルバムである。全英15位まで上がる好セールスを記録した。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ファスト・カーズ
2 ノー・リプライ
3 ユー・テア・ミー・アップ
4 ゲット・オン・アワ・オウン
5 ラヴ・バッテリー
6 シックスティーン
SIDE B
1 アイ・ドント・マインド
2 フィクション・ロマンス
3 オートノミー
4 アイ・ニード
5 パルスビート
英国のレコード会社の昔からの悪習とも言える「先行シングルはアルバムに収録しない」という完全に間違った戦略が本作でもとられ、バンドの意思に反して、既発のシングル「オーガズム・アディクト」「ホワット・ドゥ・アイ・ゲット?」は収録されなかった。しかしその後CD化に際してはそれらも収録され、そうなるともはやピストルズの『勝手にしやがれ』やクラッシュの『白い暴動』など比べても見劣りしない、堂々たる大名盤である。
シングル・カットできそうな曲がいくつも並び、楽曲も充実しているし、サウンドもラウドながらスッキリしてキレがいいのが特徴だ。わたしが特に好きなのはA1「ファスト・カーズ」、B1「アイ・ドント・マインド」、B2「フィクション・ロマンス」、B3「オートノミー」などだ。
ひねりのあるメロディや展開、痛烈な歌詞など、尖ったところもあれば、ロマンチックでポップなところもあり、「パンクのキンクス」とでも言いたくなる、豊かな音楽性と個性を備えたバンドと言えるだろう。
やんちゃでバカでクズみたいなやつも多かったパンク・ロック勢の中では、なんとなくクレバーでしっかりした連中という印象が強いバンドだけれども、バンド名が「巨根」という意味だということを知ると、そうでもないのかとも思う。
バンドの中心人物であったピート・シェリーは、残念ながら2018年12月6日に、心臓発作のため63歳でこの世を去った。その後はギターのスティーヴ・ディグルが中心となり、2022年にはアルバムをリリースするなど、バズコックスは現在も存続している。
↓ シングル・カットされた「アイ・ドント・マインド」。
↓ アルバムのほとんどの曲はピート・シェリーが書いたものだが、この「オートノミー」はギターのスティーヴ・ディグルで、本作のハイライトのひとつとなっている。
(Goro)