1982年にシングル「エヴリバディ」でデビューし、遂に還暦を過ぎた現在もポップス界の女王として君臨するマドンナは、バッハやモーツァルトの時代から数えても、史上最も成功し、有名になった女性音楽家に間違いないだろう。
女性の強さと弱さ、美しさと下品さを併せ持ち、名前の通り聖母のような優しさと悪女のような毒を持ち、先鋭的な知性と強靭な肉体を持ち、大衆的でありながら実験的な音楽を創造する、すべてを包含した、怪物的で、誰にも勝ち目のない、最強のクイーンである。その存在感の大きさは、彼女を超える女性アーティストがこの先現れるとは到底思えないほどだ。
わたしは盛りのついた18歳の1984年に、貸しレコード屋で手に取った『ライク・ア・ヴァージン』のLPジャケットに下半身がムズムズして思わず借りて以来のマドンナのファンである。
とはいえ、わたしはその後もずっとロック好きで、ダンス・ミュージックはあまり熱心に聴くほうではなかっため、マドンナに対してはちょっと離れたところからずっといやらしい目で見ていただけだったかもしれない。
歳を重ねながら果敢に新しいスタイルに挑戦していくエネルギッシュな姿にはいつも感動させられたし、その斬新な音楽に驚かされ、衰えるどころかますます美しくなっていく容姿とパワフルなダンスに悩殺され、世界最高の熟女としていやらしい目で見ていたのだ。
そういう見方も、マドンナに関しては失礼な気がしない。マドンナは、いやらしい目で見ても許される唯一のアーティストではないか。
わたしの選ぶ10曲は、ダンスチューンの好きな生粋のマドンナ・ファンとはまた違ったものになるだろう。ロック好きに薦めたい10曲ということになるのかもしれない。
以下は、わたしが愛するマドンナの至極の名曲ベストテンです。
Ray of Light
songwriters : Madonna, William Orbit, Clive Maldoon, Dave Curtiss, Christine Leach
1998年のアルバム『レイ・オブ・ライト(Ray of Light)』のタイトル曲。全米5位、全英2位の大ヒット曲。
これもスピード感あふれるダンス・チューンであり、マドンナのロケンロールだ。
当時40歳、美しい盛りのマドンナのちょっとユーモラスなPVがまた良い。
Open Your Heart
songwriters : Madonna, Gardner Cole, Peter Rafelson
5曲の大ヒット・シングルを生んだ名盤3rd『トゥルー・ブルー(True Blue)』からのシングルで、全米1位、全英4位。
のぞき部屋みたいなストリップ・ショーを模したPVが当時は賛否両論を巻き起こしたものだが、今見たらどこが問題なのかわからないぐらい。この後、マドンナのパフォーマンスは、もっともっと過激になっていったからだ。
Beautiful Stranger
songwriters : Madonna, William Orbit
1999年に公開されたアメリカのコメディ映画『オースティン・パワーズ:デラックス』の挿入歌として使用された曲。全米19位。
ちょっとレトロなテイストの映画に合わせた、60~70年代ポップスの香りがする曲だ。
この映画も、下品でバカバカしくてカッコよくて、滅法面白い。
そのオースティン・パワーズのマイク・マイヤーズも出演した、筋肉ムキムキの頃のマドンナが見れるPVも楽しい。
Hang Up
Songwriters:Madonna, Stuart Price, Benny Andersson, Björn Ulvaeus
2005年発表のアルバム『コンフェッションズ・オン・ア・ダンスフロア (Confessions on a Dance Floor)』からの先行シングル。
全世界で900万枚を売り上げ、マドンナにとって最も売れたシングルとなった。
アバの「ギミー・ギミー・ギミー」のイントロをサンプリングした曲だ。
あのイントロが、1979年の彼方からタイムスリップしてきたみたいに徐々にフェード・インしてきて、21世紀のパワフルなダンス・ビートと混ざり合う瞬間が、感動的にカッコいい。
Celebration
songwriters : Madonna Ciccone, Paul Oakenfold, Ian Green, Ciaran Gribbin
マドンナのキャリアを一望できる2009年発表のベスト・アルバム『セレブレイション』に新曲として収められたトラック。シングル・カットされて全米71位、全英3位。
疾走感のあるダンス・チューンだけど、わたしにはマドンナ流のロケンロールに聴こえる。
股をパクパク開いて前後左右に腰を振りまくる下品でカッコいいPVがまた最高だ。
ただしPVのほうは大幅にリミックスされているのが残念。CDのほうが圧倒的にカッコいい。
Like a Virgin
songwriters : Tom Kelly, Billy Steinberg
2ndアルバム『ライク・ア・ヴァージン(Like a Virgin)』のタイトル曲で、世界的な大ブレイクを果たした、マドンナを象徴し、80年代ポップスを象徴した、全米1位の大ヒット曲。
PVのマドンナのファッションを真似た女の子たちがいっぱいだった。
Material Girl
songwriters : Peter Brown, Robert Rans
世界で2,000万枚以上を売り上げたマドンナの出世作『ライク・ア・ヴァージン』のオープニングを飾る曲。全米2位。
金やモノや肉体より精神や思想や愛が大切だとされてきた70年代までの価値観を、真っ赤なハイヒールで蹴り散らしたような大胆な曲だった。今思えば、マドンナが最初の「タブー破り」に挑戦した曲だ。
当時はこの人をなめきったような歌い方にも衝撃を受けた。
Like a Prayer
songwriters : Madonna, Patrick Leonard
89年発表の4thアルバム『ライク・ア・プレイヤー(Like a Prayer)』収録のタイトル曲。全米1位の大ヒットとなった。
ゴスペル風に編曲された楽曲が素晴らしい、スケールの大きな曲だ。
このPVでもまたカトリック教会をはじめ数々の宗教団体から猛批判を受け、この曲をCMに使ったペプシの不買運動にまで発展する騒動となった。
La Isla Bonita
songwriters : Madonna, Patrick Leonard, Bruce Gaitsch
『トゥルー・ブルー』からのシングルで、全米4位のヒットとなった。わたしにとっては当時から思い入れの深い曲だ。
『ライク・ア・ヴァージン』の次のアルバムなのに、いきなり声の印象が全然違うことに当時は驚いたものだったが、ラテン系のちょっとせつない曲なので、ハスキー・ヴォイスがよく合っている。
American Pie
songwriters : Don McLean
マドンナ主演の映画『2番目に幸せなこと』で使用された曲で、米国内ではシングル発売されなかった。全英1位。
オリジナルはドン・マクリーンの1972年の大ヒット曲だ。
1959年に起きた悲劇、当時人気絶頂だった若きロックンロールスター、バディ・ホリー、リッチー・ヴァレンス、ビッグ・ボッパーを乗せた飛行機が墜落した日のことを、「The Day the Music Died(音楽が死んだ日)」と歌った曲だ。
まるで音楽の女神がロックンロールを慈しんでいるような、心に沁みるようなマドンナの優しい歌声がたまらない。
入門用にマドンナのアルバムを最初に聴くなら、オールタイム・ベスト・アルバム『セレブレイション』がお薦めだ。最初に聴くべき代表曲はすべて網羅されている。
以上、マドンナ【名曲ベストテン】でした。
(by goro)