⭐️⭐️⭐️
The Jesus and Mary Chain
“Psychocandy” (1985)
本当ことを言うと、本作を「名盤」と呼ぶのは躊躇する。これまで、これを人に薦めたこともない。
しかし、わたしにとっては、1980年代における最大の衝撃作であり、もしもこのバンドに出会っていなければ、わたしはあれほど90年代ロックを熱心に聴くことになっていなかったと思う。
この殺伐とした、この異常に完成度の低いバンドが放射する耳に突き刺さるようなフィードバック・ノイズの嵐は、わたしにリアル・タイムのロックをもっと聴きたいという熱狂的な気分にさせた。それは、とんでもなくデカい台風が、破壊の限りを尽くしながら接近していることを知って、不謹慎ながら、ワクワクしている子供のような気分だったのかもしれない。
ジーザス&メリー・チェインは、英スコットランド出身のウィリアム・リードとジム・リードの兄弟とる、ベーシストのダグラス・ハートが結成したバンドだ。
1983年に父親は工場の仕事を失い、解雇手当から300ポンドを兄弟に与えた。兄弟はそのお金でマルチトラックレコーダーを購入し、「アップサイド・ダウン」と「ネヴァー・アンダースタンド」を含むデモテープを録音したのだ。
そのテープを聴いた同郷のミュージシャン、ボビー・ギレスピーは、テープを友人でクリエイション・レコードの創立者であるアラン・マッギーに渡した。マッギーはそのテープに感銘を受け、イベントにバンドを招待し、やがてバンドのマネージャーになり、シングル「Upside Down」をリリースした。
キュイイイーーーーーーンンンピピーーーーキィィィィィキキキキキキーーーガーーガガガーーーーーーーーーーー
エレキギターの耳をつんざくようなフィードバック・ノイズの嵐、その嵐の向こうに、シンプルなビートに乗せて歌っている声がかろうじて聴こえてくる。
まるでエレキギターを初めてアンプにつなげて、どのつまみを調節していいかわからずにあたふたしているようだった。激しい水圧でコントロールできなくなった消防ホースのように、エレキギターがホワイトノイズを放出しながら跳ね回っている。
メロディそのものは60年代のキャンディ・ポップのようにシンプルでわかりやすい。ただし甘いシュガー・コーティングの代わりに、フラストレーションの爆発のような、異常極まりない暴力的なノイズに包まれているのだ。きっと『サイコキャンディ』とは、そんなイメージから生まれた造語なのだろう。
本作は1985年11月にリリースされ、全英31位まで上昇した。本作ではドラムをボビー・ギレスピーが務めている。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 ジャスト・ライク・ハニー
2 ザ・リヴィング・エンド
3 テイスト・ザ・フロア
4 ザ・ハーデスト・ウォーク
5 カット・デッド
6 イン・ア・ホール
7 テイスト・オブ・シンディ
SIDE B
1 ネヴァー・アンダースタンド
2 インサイド・ミー
3 ソーイング・シーズ
4 マイ・リトル・アンダーグラウンド
5 ユー・トリップ・ミー・アップ
6 サムシング・ロング
7 イッツ・ソー・ハード
リード・ヴォーカルを務める弟、ジム・リードは本作について次のように語っている。
「俺たちはフィル・スペクターとヴェルヴェット・アンダーグラウンドとセックス・ピストルズを混ぜ合わせたかった。それが『サイコキャンディ』の青写真だった」(モジョ誌インタビュー 2006年)
彼らの登場が、その後の英国インディー・シーンに多大な影響を与えた。それは80年代末に登場したシューゲイザーから、90年代後半のブリット・ポップにまで及んでいる。さらには、米国のオルタナティヴ・シーンに影響を与えたであろうことも間違いない。
その意味で本作は、聴いてみたらわかる通り誰もが好きになれる「名盤」ではないだろうけれども、80年代ロックの最重要作のひとつであることは確信を持って言える。
↓ オープニングを飾る初期の代表曲「ジャスト・ライク・ハニー」。イントロはロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」へのオマージュ。60年代ガールズ・ポップとフィードバック・ノイズを融合させた画期的な曲だった。
↓ 2ndシングルとしてリリースされた「ネヴァー・アンダースタンド」。爆発的なノイズのなかにかろうじて芯となるポップソングが聴こえてくる。
(Goro)