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“Beyond the Sea”
監督・脚本・主演:ケヴィン・スペイシー
1950年代後半から60年代前半にかけて、「マック・ザ・ナイフ」「スプリッシュ・スプラッシュ」「ドリーム・ラバー」など7曲のトップ10ヒットを放ったポップス歌手、ボビー・ダーリンの生涯を描いた音楽伝記映画。
ケヴィン・スペイシーが監督・脚本・主演を務め、自ら歌って踊った、部分的にミュージカル的な演出もある作品だ。
ケヴィン・スペイシーはもともとボビー・ダーリンと顔がそっくりな上にあの演技力ですっかりなりきっているので、これほどのハマり役も無いだろう。
ボビー・ダーリン
ボビー・ダーリンの知名度がない現在の日本ではまったくヒットしなかったのはわかるけど、本国アメリカでもヒットせず、評価も低かったという。
なんでだろう。すごくよく出来た映画なのに。
前半はボビー・ダーリンがヒット曲を連発し、映画に出演してアカデミー賞候補にもなり、若くて美しい女優と結婚して、栄光の日々を送りながら、一方で次第に自己中心的で尊大になっていく様子も描かれる。
後半はリベラルな思想を持つようになって政治に関わるようになり、支持していたロバート・ケネディの大統領選挙戦に同行するほどだったが、2人が宿泊していたL.A.のホテルでロバート・ケネディが暗殺される。
そして同時期に(この作品で最も衝撃的なシーンだけど)、子供の頃から尊敬し、深く愛した母親が亡くなった後で、実は彼女は母親ではなく祖母であり、姉が実の母親だった(父親は不明)という事実を知らされる。
それらのショックから、独りでトレーラーハウスで隠遁生活を送るようになる。
そして翌年に彼は過去のヒット曲を捨て、インディ・レーベルを立ち上げ、自ら作曲したフォーク調の反戦歌や、プロテスト・ソングをリリースするようになる。ここで歌われる反戦歌はなかなか感動的な曲だ。
70年代に入ると再びテレビで活躍するようになるが、1973年に持病の心臓病が悪化し、37歳で生涯を閉じる。
波乱万丈な人生と、ポップス歌手としての栄光と苦悩がどちらも良く描かれている、良質な音楽伝記映画だ。
(Goro)