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Anvil! The Story of Anvil
監督: サーシャ・ガヴァシ
出演:スティーヴ・”リップス”・クドロー、ロブ・ライナー
アンヴィルは1981年にデビューした、カナダ出身のヘヴィ・メタル・バンドだ。
映画は、数々のロックスターたちがアンヴィルを賞賛する映像から始まる。
「アンヴィルは衝撃的だった。クールだったよ。音楽業界をひっくり返すと思った。ロブ・ライナーはテクニック面でメタル界最強のドラマーだった。」ラーズ・ウルリッヒ(メタリカ)
「偉大なバンドだ。昔から好きだった。メンバーは皆いい奴で才能に溢れていた」レミー(モーターヘッド)
「彼らはスラッシュ・メタルの先駆けだ。ビッグ4より先だよ。スレイヤー、メタリカ、アンスラックス、メガデスよりね」トム・アラヤ(スレイヤー)
「アンヴィルはいつもすごいステージを見せた。リップスは過激なボンデージ姿で、バイブレーターを手にフライングVを弾いてた。ぶっ飛んでたよ。彼らがビッグにならないなんて、人生は厳しいよ。彼らはもっと注目されるべきだった。多大な影響を与えたが、皆、彼らから盗み、見捨てたんだ」スラッシュ(ガンズ&ローゼス)
この映画はそんな、ヘヴィ・メタル界の生ける伝説、アンヴィルの現在を映し出したドキュメンタリーだ。
ヴォーカル&ギターのリップスとドラムのロブが15歳のときに結成したアンヴィルは、以来30年以上、活動を続けている。2人は幼なじみであり、親友だ。
初期のアルバムは評価されたものの、現在は音楽だけでは食えず、リップスは給食配送センターで働き、ロブは建設現場で働いている。そしてときどき地元のライブハウスで、彼らのファンだったというサポート・メンバーのギタリストとベーシストを加えてライヴを行う。
公私に渡ってアンヴィルを支える女性マネージャーは、その情熱は素晴らしいが、マネージメントの仕事にかけては、残念ながら無能だ。
ヨーロッパ・ツアーを企画するものの、プラハでは道に迷って会場入りが大幅に遅れて客が帰ってしまったり、別の会場ではライブの告知ポスターも用意されていなかったことを当日知ったり、ルーマニアでは1万人収容の会場にたった174人しか客が入らなかったり、電車に乗り遅れたり、空港のベンチで寝る羽目になったり、そんな散々な5週間のツアーをこなして、ギャラはゼロという、酷い有様である。
リップスは、CDが売れないのはサウンドが悪いからだと考え、初期の作品を手掛けたプロデューサーに依頼し、借金までしてCDを自主制作するものの、大手のレコード会社に持ち込んでも「今のシーンに求められてる音じゃない」と相手にされない。
彼らが最も輝いた瞬間は1984年に日本の西武球場で行われたフェスだったという。
彼らはそこで、ホワイトスネイクやボン・ジョヴィ、スコーピオンズ、マイケル・シェンカー・グループらと同じステージに立ち、観客を熱狂させた。
そして今回も、自主制作したCDを各所に送ったところ、日本のプロモーターが反応し、幕張メッセで行われるロック・フェスへの招聘を受けることになる。
満員の熱狂的な日本の観客の前で、アンヴィルがまさに幸福の絶頂のように生き生きと演奏するシーンが映画のクライマックスだ。
50歳を過ぎて、それでも彼らはロックスターになる夢をあきらめていない。
新しい曲を書き、理想のサウンドでCDを作ることに腐心し、いつかブレイクするんだ、と信じている。
これを「カッコいい」と思うか、「イタい」と思うかは、観る人次第だ。わたしは「カッコいい」と思った。ただし、ロックスターのカッコ良さではなく、哀愁をまとった人間くさいカッコ良さだけれども。
才能が無い人間のセリフならイタいだけだが、彼らには才能がある。ただ、最新流行のロックとは違うというだけのことで、流行と音楽の価値は無関係だ。流行なんていつだって1年で廃れる。あっという間だ。
地元のライブには、アンヴィルのライヴを300回以上見ているという筋金入りのファンも来ている。アンヴィルの音楽から彼は人生に最も必要なものを受け取っているのだろう。
同様にリップスとロブも、自分たちにとってアンヴィルの音楽が必要なのだ。創造すること、観客と喜びを共にすることが、人生において必要なのだ。だからバイトをしながらでもバンドを続ける。
ロブは語る。「人生なんてあっという間だ。身に染みてるよ。人生は短いんだ。気づかぬうちに終わる。俺はそれを学んだ」
そして、リップスは語る。「15歳の頃、ロブとバンドを結成し、年を取っても続けると本気で思ってた。少しの間だけ名声を味わい、それは去った。でも味わえただけでラッキーだと思う。ある程度成功したし、ほんの少し味わった名声のおかげで、30年間音楽を続けて来られた。自分のしてきたことに満足してる。恥じることなど何もない。誇りを持ってる。音楽は永遠に残る。借金も残るかもしれないけど(笑)」
映画はスラッシュのこの言葉で幕を閉じる。
「売れてるバンドは山ほどいるけど、30年も活動を続けてるバンドはごくわずかだ。ローリング・ストーンズ、ザ・フー、そしてアンヴィルだ」
年を取ってもロックスターになる夢をあきらめきれないなんて、たしかにカッコ悪い。
でも、そのために七転八倒しながら、貧しかろうが、バカにされようが、それでも二度とない人生を楽しむ姿は素敵だとわたしは思う。
華やかな成功だけが人生の醍醐味ではないのである。