⭐️⭐️⭐️⭐️
“End Of The Century”
監督:ジム・フィールズ、マイケル・グラマグリア
出演・音楽:ラモーンズ
ラモーンズはパンク・ロックを発明し、ロック史を変えた偉大なバンドだ。
ラモーンズ以降のロック・バンドで、ラモーンズをリスペクトしないミュージシャンなんているとは思えない。
でも、素顔の彼らはとてもカッコ悪い。
ヴォーカルのジョーイは引っ込み思案で強迫神経症を患っているし、ギターのジョニーは厳格な父親のようにバンドを統制したがる。ベースのディーディーは孤独なヤク中、ドラムのトミーはツアーが嫌で脱退し、裏方に回った。
ラモーンズに影響を受け、ラモーンズを手本にしてデビューしていったイギリスのパンク・バンドたちは次々と世界的なブレイクを果たしていったのに対し、ラモーンズは一度も本国でブレイクすることなく、売れないことに悩み続け、売れるために試行錯誤を繰り返し、それでも売れず、結局諦めて解散した。
この映画は本人たちや関係者、同じ時期に活動したアーティストたちの証言によってラモーンズの素顔を深く抉るようにして明らかにしていく、彼らにとって初めての、赤裸々なドキュメンタリーだ。
メンバー間の人間関係も良くなくて、1年中ツアーバスでドサ回りを続けながら、会話もしないというバンドだ。
特にジョーイとジョニーの確執はカッコ悪い。
元々2人は政治思想でも真逆で、ジョーイはリベラル左派、ジョニーはニクソン大統領を敬愛したゴリゴリの右派だった。
そして、ジョーイが好きになった女をジョニーが横取りしてしまったことから深刻な確執が始まり、その後十数年間、ラモーンズとして活動しながらも2人が会話をすることはなかったという。
ジョーイが書いた「KKK」という、「KKKに恋人を奪われた、あの子はKKKに連れ去られたんだ」と歌うわたしの大好きな曲は、実はジョニーをKKKに見立てて書かれた歌だということもわたしはこの映画で初めて知った。さすがのジョニーも、この件に関しての質問にだけは、答えようとしなかった。
ほとんどがインタビューとライブ映像で構成されている作品だけど、古いものから最近のものまで、上手く編集しているし、深く掘り下げてあるので、最後まで飽きずに楽しめる。ライヴ映像の数々はもちろん超カッコ良い。
21年間の活動で2,262回目の最後のライヴも、特に派手な演出もなく、いつも通りに終わって、着替えて帰っていくだけで、メンバーたちが交わす言葉もない。「ええっ!それで終わり?」と思うほど、なんだか寂しい最後だった。
ジョニーが「おれたちの暗く重い側面を記録している」と語ったこのドキュメンタリーは、スラムダンス映画祭やトロント国際映画祭、ベルリン国際映画祭などで上映されて、メディアで大絶賛された。日本で公開された際も予想を超えるヒットになったらしい。
まあ「予想を超えるヒット」と言っても、東京で1館のみ、しかも夜間のみの予定だった上映に、昼間の上映も追加することになったという程度のことだけれども。
解散から5年後の2001年にジョーイはリンパ腺癌に冒され、49歳の若さでこの世を去った。
その翌年の2002年にはディー・ディーがヘロインのオーバー・ドーズで、同じく49歳で死去、さらに2年後にはジョニーまでもが前立腺癌で55歳と、まるで彼らの音楽と同じように短い猛スピードの生涯を終え、この世から姿を消したのだった。
ジョニーが語った言葉で、わたしが大好きな言葉がある。
「なぜギターソロを弾かないのか?」と訊かれて、ジョニーは「そんなことをしてるヒマはねえ!」と答えた。たしかに、彼の短い人生には、ギターソロなんて弾いている暇は無かったのだ。
最後まで生き残っていたドラムのトミーも、2014年に胆管癌で65歳で死去し、オリジナル・メンバーはすべてこの世を去った。
それでも永遠に色褪せない彼らの音楽は残り、わたしはきっと死ぬまで聴き続ける。
だから、わたしにとっては彼らは永遠に生き続けているのと変わらない。
わたしは一度だけラモーンズのライヴを観た。たしか92年だったと思う。
あれはわたしが観た、生涯で最高のライヴのひとつだった。
(Goro)