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“Quadrophenia”
監督:フランク・ロッダム
主演:フィル・ダニエルズ
音楽:ザ・フー
1973年にザ・フーが発表したロック・オペラ『四重人格(Quadrophenia)』を元に作られた映画だ。1964年を舞台に、モッズの青年ジミーと仲間たちの放埓な生活から、やがて社会から疎外され、精神的に追いつめられていく様を描いた青春ドラマ。
派手なスクーターを乗り回し、お洒落なファッションに身を固め、仲間とドラッグや乱交パーティー、そして敵対する集団”ロッカーズ”との抗争に明け暮れる、一見青春を謳歌するカッコいい「モッズ」だれどその実情は、好きな女の子にまともに相手にされず、家族から疎まれて家を追い出され、職場でもうまくいかずに失職し、ロッカーズとの抗争に巻き込まれて警察に捕まるという、なにもかもうまくいかない生活にどんどん社会からも仲間からも疎外されて孤独に陥っていくという物語だ。
見ているうちに、ひょっとしてこれはわたしの青春時代を映画化したのではないか、と思えてきた。
そういえばわたしも、あんな派手なものではないがスクーターに乗っていたし、フード付きのモッズコートを着ていた。
たしかあんな感じで女の子とヤッたこともあったし、あんなふうにいきなりフラれたし、あんな配達の仕事もやってたし、辞めるときもあんな感じだった。家族とも疎遠になり、どこにも居場所がない疎外感はまったくこの通りだった。
なんだ、わたしの映画だったのか。ジミーはわたしだ。
なんて、たぶん、見た人の半分ぐらいはそう思うのではないか。
きっと、そう思う人だけが見るべき映画で、そう思わない人にはどこが良いのかわからないような映画なのではないか。
ジミーが好きな女の子ステフ(この子の理屈じゃない尻軽さがまた良い)にフラれて、郵便車に轢かれそうになり、彼の分身のようなスクーターも失う。この辺の、追いつめられて自暴自棄になっていくジミーの変化が凄い。泣ける。
ジミーは映画の前半でこんなふうに言う。
「人と同じじゃ嫌なんだ。大物になりたい。だからモッズなんだ。でなきゃ死んだほうがマシだ」
しかし物語の最後で、彼は憧れのモッズのエース(スティング)が、普段はただのホテルのベルボーイで、客の荷物を運んでいるところを目撃する。
映画だけど、これは衝撃映像だ。すべての夢も希望も失ったにちがいない。なんでスティングなんか使ったんだろうと思っていたけれど、あのシーンはたしかにスティングだからこその衝撃だ。
ただし、スティングのダンスはひどかったな。田舎のババアが踊るパラパラみたいな。
そして、どこまでもジミーは疎外されて、人類の住む場所からジリジリと遠ざかり、最後はまさに崖っぷちへとたどり着くのだ。もう見るからに崖っぷちの、凄い崖っぷちだった。よくあんな崖っぷちを見つけたもんだ。
素人監督と素人俳優たちが映画を作っているので、もちろん綻びもあるけれど、それ以上に胸に突き刺さってくるリアリティ、共感を呼ぶアツいパワーがすごい。ガタガタでも、ボロボロでも、200億円かけて作ったハリウッド大作なんかよりずっといい。存在する意義のある映画だ。
ブルーレイに収録されている撮影秘話で監督が明かしているが、主人公のジミーは、元々セックス・ピストルズのジョニー・ロットンが演じるはずだったそうな。
オーディションも終えて合格していたのに、保険会社(撮影中になにかあったときに保険金を支払う)がストップをかけたという。
理由は、当時のジョニーはなにをやらかすかわからず、トラブルになったり、映画製作が中止に追い込まれたりする可能性があるから、ということだったそうだ。
ジョニー主演の『さらば青春の光』も見てみたかったなあ。
(Goro)