⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
Neil Young & Crazy Horse
“Rust Never Sleeps” (1979)
このアルバムに出会ったときから、わたしはニール・ヤングに夢中になった。
本作は、1977年にはからずも同時に訪れた、エルヴィス・プレスリーの死とパンク・ロック・ムーヴメント、つまりはロックンロールの「死」と「復活」についてのニール・ヤングなりの考察が中心的なテーマとなっていると言えるだろう。
LPのA面が弾き語りのアコースティック・サイド、B面がクレイジー・ホースとの爆音ロック・サイドという構成になっている。考えてみたら、そんな極端な構成のレコードなんてあまり聞いたことないなと思う。その意味でも、ニール・ヤングという人の多面的な音楽性を象徴するアルバムでもある。
【オリジナルLP収録曲】
SIDE A
1 マイ・マイ、ヘイ・ヘイ (アウト・オブ・ザ・ブルー)
2 スラッシャー
3 ラマに乗って
4 優しきポカホンタス
5 セイル・アウェイ
SIDE B
1 パウダーフィンガー
2 ウェルフェアー・マザー
3 セダン・デリヴァリー
4 ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)
オープニングを飾る弾き語りのA1「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ」の、イントロの力強く美しいアコギの響きには一瞬息を呑むほどだ。
ロックンロールの歴史の原点、エルヴィス・プレスリーが死んだ1977年、イギリスではセックス・ピストルズがアルバム『勝手にしやがれ』を発表するなど、パンク・ムーヴメントが巻き起こっていた。
この曲でニール・ヤングは「王様は死んでも、ロックンロールは決して死なない」と歌い、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンの名前を歌詞に入れてエールを送っている。
ロックンロールが巨大産業に変わっていき、大人向けの複雑で難解なものになっていった時代に、ふたたび若者らしい反骨心とストレートな情熱をむき出しにするロックンロールの原点に還ったパンク・ロックに対して共感をこめて歌ったものだった。当時の写真で、ピストルズのTシャツを着て演奏しているニール・ヤングの写真も見たことがあるほどだ。
アコースティック・サイドではファンタジックで詩的なA2「スラッシャー」も好きだし、その後に続く3曲もどれも印象的なメロディや歌詞を持った佳曲ばかりだ。
B面は、ニール・ヤングの楽曲の中でもわたしがもっとも愛する曲のひとつ「パウダーフィンガー」で始まる。わたしはこの、シンプルなのに感動的な歌メロはもちろん、ニール自身による天国的な上昇感と閃きを持つギター・ソロを愛してやまない。ギター・ソロは演奏するたびに変わるけれども、本作の後にリリースされる『ライヴ・ラスト』ではさらにぐっと良くなるし、91年のライヴ盤『ウェルド』のバージョンはさらに感動的だ。
ニール流のパンク・ロックのB2、B3と続いた後は、ロック史上最も醜く歪んだエレキギターの爆音による「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ」で締めくくられる。A1の「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ」のロック・バージョンである。
あまりに歪ませすぎて、音にならなくなる寸前みたいなギターのリフが衝撃的だった。
この醜く苦しげに歪んだ呻き声によって、この歌が決してただの熱狂的なロックンロール賛歌ではないことがわかる。60年代から、ロックンロールの闇と深淵を間近で覗きこみ、自身も綱渡りで生きてきたニールによる、ロックンロールの持つポジティヴなパワーとダークサイドの両方をリアルに表現したものになっている。それは、ロックンロールが誕生して以来若者たちを魅了してきた、破壊的かつ破滅的なエネルギーの剥きだしの生々しい正体のようだ。
わたしもまたロックンロールという、この抗いがたいほどクールな化け物に、死ぬまで魅了され続けるのだろう。
↓ オープニングを飾る、弾き語りの「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ (アウト・オブ・ザ・ブルー)」。
↓ ラストのロック・バージョンの「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」。この曲の歌詞にある「It’s better to burn out than to fade away(やがて消えていくのなら燃え尽きたほうがいい)」というフレーズはカート・コバーンのあの悲痛な遺書に引用されていたことが知られている。ニールはそれを知ったときに心底打ちのめされ、この曲を二度と演奏しないと宣言したが、残されたニルヴァーナの二人の説得によって、宣言を撤回している。
(Goro)