米テキサス州出身のジャニス・ジョプリンは、サンフランシスコのバンド、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーにヴォーカリストとして参加し、1967年にアルバム『ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー』でデビューした。
ビッグ・ブラザーとはあと1枚、名盤『チープ・スリル』を68年に発表後に脱退、69年に『コズミック・ブルースを歌う』でソロ・デビューする。
1970年10月4日、最後のアルバム『パール』を制作するために滞在していたハリウッドのホテルの部屋で、ジャニスは遺体で発見された。死因はヘロインのオーバードーズだった。享年27歳。
ジャニスがこの世を去ってすでに54年が過ぎたが、彼女を超える衝撃と感動を与える女性ロック・シンガーにわたしは未だに出会っていない。唯一にして無二の存在だった。
「ブルースの女王」ことベッシー・スミスに憧れて歌い始めたジャニスなので、ブルースやR&B、あるいはジャズの世界に行ったとしてもおかしくなかっただろう。きっとそのどれを選んでも成功したと思うけれども、彼女がロックという畑を選んでくれたことに、今さらながら感謝したい気持ちになる。
当時はまだまだ自由で、「なにをやってもいい」音楽だったロックは、常識を突き抜けた彼女の歌声と才能をありのままに開花させるのにいちばんふさわしかったのではないか。
たったの3年しか活動できなかったのだから、本当に一瞬で駆け抜けてしまったようなものだけれども、それでもロックの歴史に永久に残る作品を遺してくれたことを感謝したいと思う。
以下は、わたくしGoroが愛してやまないジャニス・ジョプリンの至極の名曲のベストテンです。
Little Girl Blue
3rdアルバム『コズミック・ブルースを歌う(I Got Dem Ol’ Kozmic Blues Again Mama!)』収録曲。2015年公開のドキュメンタリー映画『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』の主題歌にもなった。
ジャニス自身が歌詞を書き、「座って指を数えるかわいそうな女の子、降ってくる雨の粒を数えることしかできない女の子」と歌われる、孤独でなにも持たない少女を自伝的に描いたせつない歌だ。
To Love Somebody
『コズミック・ブルースを歌う』収録曲。元はビー・ジーズのオリジナル曲だが、ほぼ原形をとどめないほど変わっている。
ジャニス版の、ブラスを中心にしたサザン・ソウルのようなアレンジが最高だ。
Mercedes Benz
4thアルバム『パール(Pearl)』収録曲で、ジャニスが死の3日前に遺した、生涯最後の録音。神様に「ベンツをちょうだい、カラーテレビをちょうだい、街で一晩中ハジけさせて」とねだる歌だ。
伴奏は無く、ジャニスの靴音と声だけの録音だけど、それだけで充分聴ける曲になっているからさすがだ。
「ブルースの女王」ではなく、可愛らしい素のジャニスが聴けるような、ある意味アルバムの裏ハイライトのような曲でもある。
Maybe
『コズミック・ブルースを歌う』収録曲で、シングル・カットもされた。
ジャニスの歌唱も素晴らしいし、バックの演奏もいい。
One Night Stand
1982年にジャニスの未発表録音集として発表されたアルバム『白鳥の歌(Farewell Song)』収録曲。
1970年に録音されていたトラックで、バックの演奏はポール・バターフィールド・ブルース・バンド。プロデューサーをトッド・ラングレンが務めている。
ジャニスにはしてはだいぶポップな曲調だ。シングル・カットもされ、全米35位まで上がった。
Kozmic Blues
ソロ・デビュー・アルバム『コズミック・ブルースを歌う』のタイトル曲。歌詞もジャニス自身が書いている。
それまでのバンドを脱退してソロになり、スタジオ・ミュージシャンを金で雇って作ったアルバム、などと批判もあったらしいが、それのなにがいけないのかわからない。それで傑作が生まれたのだ。スタジオ・ミューシャン万歳である(だいたいわたしはビッグ・ブラザーの演奏があまり好きではない)。
Summertime
ジョージ・ガーシュウィンが1935年に発表した、登場人物がほぼ黒人だけのオペラ『ポーギーとベス』の中の1曲。第一幕で漁師の妻クララが子守唄として歌い、その後、夫のジェイクが嵐の海で死んだ後にも歌われる。
翌年にビリー・ホリデイが歌ってヒットし、それ以来多くの歌手が歌うジャズのスタンダードになった。
ジャニスのバージョンは悲壮感漂う凄絶なものだ。
Move Over
彼女の死から3か月後に遺作として発表され、全米1位となったアルバム『パール』のオープニング・ナンバー。
数少ない、ジャニス自身が作詞・作曲をした楽曲で、ジャニスの曲では最もロック色の濃い、ナンバーだ。
Me and Bobby McGee
カントリー・シンガーのクリス・クリストファーソンが書いた曲。ジャニスの死後にシングル発売され、全米1位の大ヒットとなった。アコギもジャニスが弾いている。
ブルース、R&Bを中心に歌って来たジャニスにはカントリー・テイストの曲はめずらしいが、完璧に歌いこなし、そして彼女が歌うとやっぱりなんでも新たなロックになるのはさすがと言う他ない。
Piece of My Heart
ビッグ・ブラザ―&ザ・ホールディング・カンパニーとの2ndアルバム『チープ・スリル(Cheap Thrills)』 に収録された、アーマ・フランクリンが67年に発表した曲のカバー。
原曲を大きく崩していないが、燃えるような魂を持った獣が力の限り咆哮するようなジャニスの歌唱は圧倒的だ。
以上、《ジャニス・ジョプリン【名曲ベストテン】 でした。
(Goro)