Otis Redding
(Sittin’ On) The Dock Of The Bay (1968)
寂しげで、疲れ切ったように、呟くようなヴォーカルで歌われるこの穏やかな名曲は、それまでのオーティスのイメージと少しだけ違い、それまでのソウル・ミュージックと大きく違う。
派手なシャウトも無ければ、強いベースやダンスビートも無く、フォークやロックなどの要素も取り入れて、心を揺さぶるような歌詞をよりリアルに伝える歌になっている。オーティスの新しい音楽への一歩と同時に、ソウル・ミュージックの新たな扉を開くような画期的な名曲だ。
この曲はオーティスとプロデューサーのスティーヴ・クロッパーによって書かれ、1967年の12月にメンフィスで録音された。
オーティスはその年に発売されたビートルズの『サージェント・ペパーズ』に触発され、新しいサウンド作りを目指したのだという。しかし出来上がったこの曲をレコード会社は気に入らなかった。妻のゼルマもこの型破りな歌を嫌い、バンドも「これはR&Bではない」と不安視したが、オーティス自身は出来栄えに大いに満足して「これはおれのキャリアで一番のビッグ・ヒットになる」と確信していたという。
しかしこの曲をレコーディングした3日後の1967年12月9日、ライヴ・ツアーの移動中だったオーティスとバンドのパーケイズの5人、そして付き人を乗せた自家用飛行機が、ウィスコンシン州のモノナ湖に墜落した。パーケイズのトランペット奏者ベン・コーリーだけが奇跡的に生き残ったが、彼以外のパイロットを含む全員が還らぬ人となった。
オーティスの遺体は翌日に回収され、12月18日にジョージア州のメイコン市公会堂で葬儀が行われた。3,000席のホールに、4,500人が参列したという。
そして翌月の1968年1月、この曲はシングルとして発売された。
「ドック・オブ・ベイ」は全米1位の大ヒットとなり、オーティスが予見した通り、彼のキャリア中一番のビッグ・ヒットとなり、400万枚を売り上げ、800万回以上オンエアされた。
(Goro)