伝統的な美と冒険的アヴァンギャルドの同居 〜ウィルコ『ビーイング・ゼア』(1997)【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#365

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【わたしが選ぶ!ロック名盤500】#365
Wilco
“Being There” (1997)

ウィルコは、米イリノイ州シカゴで結成されたオルタナ系のバンドである。

彼らの音楽スタイルを一口で説明するのは難しい。

もともとはアンクル・テュペロというバンドがあり、カントリー・ミュージックをベースにしながら、オルタナティヴ・ロックの要素も取り入れた音楽性で、「オルタナ・カントリー」などと呼ばれていた。

そのアンクル・テュペロのフロントマンであったジェイ・ファラーが音楽性の相違ということで脱退し、ヴォーカル&ギターのジェフ・トゥイーディーを中心に残されたメンバーであらためて結成したのがこのウィルコだった。

彼らもまたオルタナ・カントリーから再スタートしたのだけど、より自由に逸脱し、カントリー以外のルーツ・ミュージックにも手を広げ、さらにはオルタナや前衛方面にもまた積極的に手を広げ、どんどんなんでもありの自由なバンドになっていった。アングラなのは間違いないが、ポップでもあるし、ある意味シュールでもある。真摯でシリアスのようでもあるし、とことん楽しんでいるようにも思える。

いったいなにを出してくるのかわからないという意味では常に興味をそそられるバンドだ。新譜が出るたびに今度はどんな音なのかとても気になる。

その意味ではわたしは彼らをアメリカのプライマル・スクリームみたいに思っていて、いや音楽性はまったく似ていないのだけれど、あの自由奔放さと急進性、孤高の存在感はなんとなく似たところがあるように思う。

米国のローリング・ストーン誌は彼らを「アメリカ最高峰のロックの印象派」と評したが、そのつかみどころのない、フワっとしたアート感が”印象派”と言わせたのだろう。

本作はそんな彼らがオルタナ・カントリーというレッテルからさらに自由になるために、CD2枚組19曲収録で1997年リリースした2ndアルバムである。

【オリジナルCD収録曲】

[Disc 1]

1 ミスアンダースタンド
2 ファー、ファー・アウェイ
3 マンデイ
4 アウタサイト(アウタ・マインド)
5 フォーゲット・ザ・フラワーズ
6 レッド・アイド・アンド・ブルー
7 アイ・ガット・ユー
8 ホワッツ・ザ・ワールド・ガット・イン・ストア
9 ホテル・アリゾナ
10 セイ・ユー・ミス・ミー

[Disc 2]

1 沈んだ財宝
2 サムデイ・スーン
3 アウタ・マインド(アウタ・サイト)
4 サムワン・エルスズ・ソング
5 キングピン
6 イン・ユア・ドリームス
7 ホワイ・ウッド・ユー・ウォナ・リヴ
8 ジ・ロンリー・ワン
9 ドリーマー・イン・マイ・ドリームス

わたしはこういった、音楽性の幅が広い、混沌とした雰囲気が楽しめる2枚組アルバムが大好きだ。ルーツ・ミュージックとオルタナティヴ・ロックが並置され、ピュアな美しさと冒険的アヴァンギャルドが同居し、何年聴き続けても飽きない。

このアルバムを聴いてわたしが思い出したのは、あのピュアで邪悪な2枚組アルバム、ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』だった。即興で録られたような、その瞬間の興奮や生々しさ、現場のリアリティが伝わってくるところがなんとなく似ているように思えたのだ。

録音された30曲近くの中から、ジェフ・トゥィーディーは「1枚に絞るより、この混沌とした広がりそのものが重要だ」とたぶんわたしと同じことを考え、2枚組でのリリースを熱望したという。

当時はまだ全然売れていないバンドだったうえに、2枚組にすれば価格が上がり、さらに売れ行きが悪くなることが予想されたため、ワーナー傘下であるリプライズ・レコードは大いに難色を示したが、それに対してジェフは「1枚組と同じ通常価格で販売するなら、印税をカットしても構わない」と提案し、異例の低価格2枚組が実現したという。

↓ 不穏なノイズと極めて美しいピュアなメロディを融合させたオープニング・トラック「ミスアンダースタンド」は、これから始まる野心的なアルバムへの期待を高める。

↓ 伝統的なカントリー・ロックやフォーク・ロックに近い「ホワッツ・ザ・ワールド・ガット・イン・ストア」。わたしは本作ではこの曲が一番好きだ。

(Goro)

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